フィリピンの経済成長率

ASEAN諸国の経済成長率比較

フィリピンのBPO産業
この産業構造の変化をもたらしているのがBPO産業(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)である。ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)とは、企業運営上の業務やビジネスプロセスを専門企業に外部委託することを指すが、フィリピンの場合はアメリカを中心とした海外の企業からコールセンター業務を中心に委託を受けている。
2013年にフィリピンのBPO産業は90万人の労働力を雇用し155億ドルの総収入を得た。これはフィリピンのGDP2720億ドルの5.7%にあたる。フィリピンの労働人口は約4000万人だから、労働人口の2.25%でGDPの5.7%を稼ぎ出したことになる。BPO産業は2004年には10.1万人を雇用し13億ドルを稼ぎだすに過ぎなかったものが、その2年後の2006年には24万人を雇用し32億ドルの売上へと倍増した。そして、ほんの10年の間にその規模は10倍となった。
ちなみに人口の約1割が海外に居住又は就労するフィリピンは海外出稼ぎ労働者(OFW)から年間230億ドルの送金を受けており、これはGDPの8.5%の相当するが、このままBPO産業の成長ペースが続くと2016年には130万人を雇用し、250億ドルを稼ぎ出す産業となり海外出稼ぎ労働者からの送金総額を抜くのではないかとさえ見られている。さらには、2012年の段階で労働人口の32%が従事し、GDPの11.8%(256億ドル)を生み出した農業部門を付加価値額で抜くのも時間の問題だろう。また、BPO産業は労働者一人当たり2.5人の追加的雇用を小売り、交通、サービス部門に生み出すと見られているので、経済への波及効果はさらに大きくなる。最近街中に増えてきたスターバックス等の決して安くない飲食店やセブンイレブンを初めとした24時間営業のコンビニエンスストアーの増加も、コールセンター従業員を顧客としていると考えれば納得できる。
イーストウッドの成長
ここで現在、マニラ首都圏でコールセンターの中心地の一つとなっているケソン市のイーストウッド(Eastwood)について見てみよう。
イーストウッドは1997年にメガワールド・コープのアンドリュー・タンによって開発が始められるまでは、寂れた繊維工場が林立するエリアだった。タンはこの一帯16ヘクタールの土地をコールセンター、マンション、そしてショッピングエリアとして開発し、1999年にはPEZA(Philippine Economic Zone Authority:フィリピン経済区庁)からITパークとして認定を受け、税制優遇措置を得た。
これによりイーストウッドは現在59の企業で60000人が働く地域となり、その従業員を中心に25000人が居住、500の店舗が展開する一大複合エリアに成長している。ちなみに、日本の東映アニメーションもイーストウッドにスタジオを構え、250人のスタッフが動画を作成し、太いインターネット回線を用いて日本に送っている。あの『セーラームーン』も『ワンピース』も動画はフィリピンで制作されていたのだ。
イーストウッドの様子

フィリピン中央銀行の調査によればBPO産業の従業員は平均で$8,849(2012年)を稼ぐが、これはマニラの最低賃金(日額481ペソ)の3倍にあたる。大学新卒の社会人の給与は一般的には最低賃金+α程度なので、新卒でコールセンターの職につけばいきなり一般の3倍の給与が得られるということを意味する。
サービスが海外へ売れるようになった
一昔前までBPO産業の中心地はインドだった。それが2010年にフィリピンの売上額がインドを抜きさり、世界一へと躍り出た。その理由の一つに、フィリピンの英語力の高さがある。インドでは大卒者のうちBPO産業で採用できるレベルの英語力を有しているものは10%程度とされているが、フィリピンではそれが30%に上る。特に、顧客であるアメリカ人やオーストラリア人にとって聞きやすい英語を話せることがフィリピンが好まれる理由である。
このような変化がもたらされたのは、何よりもまずインターネットが普及したことが背景にある。つまり、これまでは国内でしか販売できなかった「サービス」がインターネット回線を通してフィリピンに居ながらにして海外へ販売できるようになったのだ。これまでフィリピンが輸出できる商品といえば、鉱物資源であり、農産物であり、電化製品でありといった具体的な形をともなった「モノ」だった。そして、サービスを販売するためにはフィリピン人自身が海外へ出稼ぎに行き「労働力」として販売する必要があった。それが、ネット回線を通して海外へ出ることなく労働力を販売できるようになったのである。
フィリピンBPO産業の課題
ただし、フィリピンのBPO産業もすべてがバラ色というわけでもない。まず、アメリカを主な顧客としたコールセンターの場合、勤務時間をアメリカに合わせることになるので、フィリピン人が本来就寝しているはずの深夜に働くことになる。このため、コールセンターの従業員は昼夜逆転した生活になることが多く、体を壊す従業員が続出している。また、BPO産業は2012年だけでも137000人を新規雇用したが、これはフィリピンの大学新卒人口の25%にあたる。すでに、優秀なフィリピン人を継続的に雇用することが難しくなってきているのだ。
マカティのビル群から見上げた空

次に、現在、フィリピンのBPO産業の65%はコールセンター事業が占めているが、今後は電話によるサービスだけでなく、メール、SNS等の多様な媒体を使った事業が増えてくるので、そうした変化に迅速かつ柔軟に対応していく必要がある。さらにはWEBシステムやアプリの開発等、より付加価値の高い事業への成長が求められている。
フィリピンの一人当たりGDP(購買力平価 USドル)

【参考】
Philippines’ Rise as Call-Center Nation Lures Expats Home
Phl closes in on India as top BPO site
It’s official: PH bests India as No. 1 in BPO