為替介入
為替介入とは、一般に、通貨当局が外国為替市場において、外国為替相場に影響を与えることを目的に外国為替の売買を行なうことを言う。日本では、財務大臣が円相場の安定を実現するために用いる手段として位置付けられており、為替介入は財務大臣の権限において実施される。日本銀行は、その際に財務大臣の代理人として、財務大臣の指示に基づいて為替介入の実務を遂行する。
為替介入は、各国の通貨当局が自主的に判断して決めるが、複数の通貨当局が協議のうえで、各通貨当局の資金を用いて同時ないし連続的に為替介入を実施することを「協調介入」と呼ぶ。今回は日本が単独で行ったので「単独介入」である。
日本銀行が財務大臣の代理人として行なう為替介入は、すべて政府の「外国為替資金特別会計」(外為会計)の資金を用いて行われる。この資金は、大別して外貨資金と円資金によって構成されており、ドル買い・円売り介入の場合には、「政府短期証券(FB)」を発行することによって円資金を調達し、これを売却してドルを買い入れる一方、ドル売り・円買い介入の場合には、外為会計の保有するドル資金を市場で売却して、円を買い入れることになる。
今回は円高是正のためのドル買い・円売り介入なので、そのための資金は政府が発行した「政府短期証券(FB)」を売却して調達したことになる。

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不胎化介入と非不胎化介入
昨日(9月15日)のニュースでは日銀による不胎化介入・非不胎化介入という言葉が乱れ飛んでいた。例えば
日銀、介入資金を吸収しない方向=関係筋
[東京 15日 ロイター] 関係筋によると、日銀は、15日の外為市場で実施した円売り/ドル買い介入で供給した資金を吸収せず非不胎化する方向。
日銀は15日、政府・日銀がドル買い/円売り介入を実施したことを受け、「強力な金融緩和を推進するなかで今後とも金融市場に潤沢な資金供給を行っていく方針」との総裁談話を発表した。
為替介入の実施と同時に注目を集める非不胎化介入とは何なのか?
為替介入のための資金調達は政府が「政府短期証券(FB:Financing Bill)」を発行・売却することにより得られる。現在、FBは基本的に市場で売却されることになっているので、資金調達と同時に市場の資金を一旦吸収することになるが、為替介入と同時に円が市場へ供給されることになるので、全額が市場調達される場合には市場での資金量の変化は差し引きゼロとなるはずである。但し、FBを日銀が買い取った(引き受けた)場合は、新たな資金が市場に供給されることになるので、市場での資金量は増加する。
つまり、為替介入(ドル買い・円売り)のための資金を日銀が供給すれば、円高が是正されると同時にベースマネーが増加することになり、金融緩和の役割も果たす。
ベースマネーの増加はインフレ要因となりうるから、ここで日銀が市場の資金量を調整するために、市場から資金を吸収すること(国債の売りオペによってなされる)を不胎化介入と呼ぶ。インフレの種が蒔かれることを「胎化」、それを発芽させないことを「不胎化」と呼ぶのだ。

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では、さらに非不胎化介入とは何なのか?
これは不胎化介入をしないという意味なので、為替介入により市場に出回る円が増加しても、日銀はそれを吸収しませんよということだ(不胎化介入しないという意味)。
昔は為替介入のための資金は日銀が供給していたので、為替介入により市場に出回る資金量は増加した。そのため、増加した円を日銀が国債の売りオペなどで回収していたのだ(不胎化介入)。だから、資金を吸収せず、市場に出回る円の量を増加したままにすることが非不胎化介入だった。
しかし、今は原則的に為替介入の資金調達は市場で行われる。この場合、為替介入しても市場に出回る円の量は結果的に変化しない。この場合の非不胎化介入とは、日銀が為替介入分に用いられた円と同額を市場に供給することを意味するのだが、果たして、そんなことが行われているのだろうか?
この点について調べてみたのだが、明確に解説しているメディアはほぼ皆無だった。
しかし、メディアではさかんに「日銀は非不胎化介入を決定」などのニュースが報道されている。ということは、為替介入のための資金を日銀が供給したか、あるいは日銀が為替介入に用いられた資金に相当する円を国債買いオペによって市場に供給したかのどちらかということになる。しかし、実のところ日銀はより消極的に「日銀は市場から円を吸収せずに見守ります」という何もしないことを持って「非不胎化介入」と呼んでいる可能性さえ排除できない。
残念ながら筆者はそれを判断するに十分な情報を持っていない。もっというなら、為替介入によって市場に出回る円の量が増加するのか、しないのかというのは非常に重要なポイントなのにも関わらず、それを判断できるだけの情報が国民に与えられていないとも言えるのではないだろうか?
為替介入について比較的わかりやすく解説されている朝日新聞の記事でさえ
円売り介入、長期化の可能性 日銀のサポートがカギ
日銀は15日、円売りドル買いの為替介入で金融市場に投入される円資金の一部を回収せず、市場に出回る円資金の量を増やす「非不胎化」に踏み切る方針を決めた。円売り介入では、金融機関からドルを買って円資金を支払うため、金融市場に出回る円の量が大量に増える。
と、資金の調達元を検証することなく「為替介入すれば市場に出回る円の量が大量に増える」と説明してしまっている。
必要なのは金融緩和とリフレ
ところで、今回は円高是正のために為替介入が行われたわけだが、実のところ、こうした人為的な為替介入は必要さえなかったと言える。
現在、円がドル、その他の通貨に対して一貫して高くなっている理由は、アメリカその他の国々がリーマンショック以降の景気後退に対応して金融緩和を行い、ドルやポンドをどんどん印刷していることだ。ドルが増えて、円が増えなければ、円高・ドル安になるのは自明の理である。
ならば為替介入なしに円高・ドル安を是正する方法は何か?それは、日銀も円を増刷すればよいのである。つまり、一層の金融緩和(量的緩和)である。
どの程度の金融緩和が必要か?と言えば、日本は今、デフレなのだから、せめてインフレ率2%程度になるまでの円の増刷である。もし日銀が「インフレ率が2%になるまで毎月3兆円分の長期国債を買い切ります」と宣言し実行したなら、市場には年率2%のインフレ期待が生まれて、ようやくデフレから脱却し、なおかつ、インフレ期待に合わせて為替相場も円安方向へと転換するだろう。
どちらにしても、今回の為替介入をより効果的にするためには、為替介入と同時に市場に出回る円の量を増加させ、金融緩和の意味を持たせる非不胎化介入は最低限必要な措置だと考えられる。
【参考】日本銀行
財務省 円の国際化の推進策について