バランガイは地方自治体
バランガイはフィリピンの最小行政単位であり、2010年現在、全国に42025存在する。フィリピンの行政構造は基本的に国−(地方)−州−市・町−バランガイとなっており、このうち地方(Region)を除く全てに首長と議会が存在している。フィリピンの人口が約9000万人であることを考えると、バランガイの平均規模は400世帯・2000人強ということになる。
バランガイは日本の町内会と似た組織だと語られることが多いが、実際は地方自治体としての法的地位を有しており、法的には自主団体と分類される日本の町内会よりも格段に大きな権力を持っている。具体的にはバランガイ議会での立法権(バランガイ条例)、バランガイ・キャプテンのもつ行政権(逮捕権含む)、そして同じくバランガイ・キャプテンが裁判長を務めるバランガイ裁判所の司法権と、3権を有する政府組織である。このうち、バランガイ裁判所について見れば、犯罪に対して罰則を与えるというよりは、村人の間の揉め事を調停し、平和に保つことが目的といえる。バランガイ裁判所で解決できない案件や、その守備範囲を超える犯罪についてはより上級の裁判所が扱うことになる。

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バランガイの財源
バランガイの財源は人口や面積に応じて国から配分されるIRA(Internal Revenue Allotment:内国歳入割当金)が大部分を占め、他に、サリサリストアやトライシクルから徴収される営業許可税、そして固定資産税の一部などの独自財源も持つ。特に、サリサリストアや住宅の多いマニラ首都圏のバランガイでは営業税・固定資産税などからもたらされる税収も大きいが、農村バランガイの場合は、IRAによる収入だけで歳入の90%を超える。今年の全国のバランガイに対するIRA配分の総額は510億ペソ(1000億円)となっており、法律では中央政府の税収のうち40%はIRAとして全国に配分されると定められている。
人口2000人程度の平均的な農村バランガイの場合は、IRAが100万ペソ(200万円)程度しかなく、ここから人件費、活動費、そしてインフラ開発費などの全ての予算を捻出することになる。また、バランガイ予算の10%は自動的に青年議会(SK)に配分される。一方、マニラ首都圏の10万人以上の人口を抱えるバランガイでは年間予算が2500万ペソ(5000万円)にも上り、これは農村地域の町予算よりも大きい。また、その10%にあたる250万ペソ(500万円)の予算が与えられる青年議会は農村バランガイよりも大きなお金を管理することになる。

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バランガイ選挙
これら予算を管理し、自治を行うバランガイ・キャプテン(1人)、バランガイ議員(7人)と青年議会議長(1人)・青年議会議員(7人)は基本的に4年に一度の選挙で選出されることになっているが、バランガイ選挙は延期されることも多いので、実際にはちょうど4年毎というわけでもない。また、選挙で選出される議員の他に、事務局長、会計役などを置き、行政サービスを担う組織としてバランガイ・ヘルス・ワーカー(保健婦)、バランガイ・タノッド(自警団)などがある。
バランガイは住民にとって、特に、農村地域の住民にとっては一番身近な生活に密着した政府なので、バランガイ役員を決める選挙は白熱する。特に、バランガイ役員のなかでも、長であるバランガイ・キャプテンには権限が集中するため、バランガイ・キャプテンが有能であるかどうかは住民にとって非常に重要なこととなる。一般的に有能なバランガイ・キャプテンとは地域に政府のプロジェクトを誘致する能力があり、なおかつ、便益を公平に配分してくれる人格を指す。年間予算100万ペソ程度では地域のインフラ整備などできないから、実際には上級機関(町・州)や、国会議員のもつ地方開発予算(ポークバレル)にアクセスすることによって村内のインフラ整備は行われる。一方で、こうしてもたらされるプロジェクト予算から一定の割合を自分のポケットに納めてしまうバランガイ・キャプテンがいることも事実であり、村の発展を目指す候補たちと自分の権力欲と懐を潤したい候補たちが共に立候補するのがバランガイ選挙なのである。