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2010年11月06日

デフレの何が悪いのか?−デフレが悪い8つの理由−

デフレの何が悪いのか?− デフレが悪い8つの理由 −

このブログでは一貫して、今の日本経済の悪化の元凶をデフレとし、その克服を目指すこと(リフレ)が必要であるとの視点で書いてきた。今回は「そもそもデフレの何が悪いのか?」について考えてみたい。

デフレの害 1 企業業績の圧迫


まずデフレとは、物価が持続的に下落していく現象を指し、 それは逆に貨幣価値の上昇を意味する。

[世] [画像] - 日本のGDPデフレーターの推移(1980〜2010年)
GDPデフレーターの推移

上の図はGDPデフレーター(名目GDP/実質GDP)の推移である。推移がプラスならインフレ、マイナスならデフレ傾向にあると見ることができる。これを見ると、日本は97年から一貫してデフレであったことが理解できる。

物価が持続的に下落するということは、つまり、企業がこれまでと同量の商品を製造・販売しても、売上高は下落するということだ。もし、その企業だけが商品価格を下げなければ消費者は他企業の商品を購入するから、企業は販売価格を下げざるを得ない。低価格でこれまでと同量しか販売しなければ、必然的に売上げ高は減少する。これについては最近の牛丼の値下げ合戦を見れば想像できるだろう。もちろん、デフレのときには原材料の仕入れ価格も下落しているだろうから、売上げと同じペースで製造コストも下落していれば企業にとって問題はない。しかし、実際には人件費の下落だけはペースが遅くなるので、企業の利潤は物価下落率以上に圧縮される。

例えば、売上げに占める人件費の割合が30%、その他のコストが60%を占め、残りの10%が利潤となる企業を考える。デフレで売上げ額が3%下落し、人件費を除くコストも3%下落したとしても、人件費が下落しなければ利潤は12%も減少してしまう。

つまり、デフレの時には賃金の相対的な高騰が企業業績を圧迫するのである(相対的な高騰とは、物価が下落する中で賃金だけが下落しないことによる高騰を指す)。

デフレの害 2 失業の増加・格差の拡大


そこで、企業は思い切った人件費の圧縮に乗り出さざるを得ない。

デフレ率が3%のとき、自動的に人件費も3%削減できればよいのだが、既存の賃金制度や労働組合の存在によりなかなかそうはいかない。そこで企業が行ったのは、リストラによる従業員の解雇、新規採用の停止と正規社員の非正規社員への置き換えだった。つまり、日本の場合、人件費の圧縮は主に失業率の増加と若年層の賃金引き下げにより実現されたのである。また、相対的に高くなった人件費を嫌って、生産工場を海外へ移転する動きも活発化した。これは国内直接投資を減少させるから、雇用を縮小させた。

[世] [画像] - 日本の失業率の推移(1980〜2010年)
失業率の推移

実際、バブル崩壊後に上昇しながらも3%台を保っていた日本の失業率は97年(橋本内閣の失政)を契機として上昇率を高め、2001年には5%台にまで上昇した。この97年以降は日本が明確にデフレ入りした時期と一致している。

つまり、デフレは失業を増大させ、なおかつ、若年層の賃金を引き下げることにより世代間格差を拡大させたのである。

デフレの害 3 財政問題の悪化


デフレのもう一つの害は財政問題の悪化であり、これは名目成長率の低迷によりもたらされる。名目成長率とは名目GDPの成長率を指し、実測される経済成長率である。ここからインフレ率を引いたものが実質成長率であり、本当の経済成長率となる。

名目GDP成長率 = 実質GDP成長率 +インフレ率

の関係があるから、インフレ率が高いほど、名目経済成長率は高くなる。

名目GDPが重要な意味を占めるのはそれが税収を左右しているからだ。所得税にしろ、法人税にしろ、これらは所得や利益に対してかかるわけで、国全体としての所得・企業利益が増大すれば、それだけ税収も増大する。特に、所得税は累進課税により「所得の階段」を上った者により重く掛かるので、多くの人の所得が増える時期(=名目成長している時期)には名目成長率以上のペースで増加する。同じく法人税も企業が黒字の時に税収が増える。

デフレでは名目成長率は低下するので、その分、税収も増加しないことになる。さらに、デフレが不況を伴えば、生活保護等の社会保障費や、不況対策のための公共事業費が増大するので、歳入の減少と歳出の増加が同時に起こり、財政を悪化させることとなる。

デフレの害 4 債務問題の悪化


デフレにより物価や所得は減少するものの、一旦借り入れた借金(=債務)は減少しない。債務は元本に利息がついて増加するものだし、デフレになって金利が低下しても、元本は減らないから債務負担は実質的に増加する。

Debt GDP ratio.JPG
債務残高の対GDP 比

これが日本の債務問題を直撃している。日本の名目GDPに占める国債残高(=債務残高)がG7の中でも突出しているのは、日本だけが国債残高を増加させているからではなく、単に、日本だけが名目成長していないからであることについては「債務残高の国際比較」で検討した通りである。

そして、名目GDPが成長せずに、国債残高だけが増加すれば、債務が長期的に見て返済不可能になるかもしれない。名目GDPが増加しなければ、返済原資にあたる税収も増えないからだ。

デフレの害 5 消費の減退


経済がデフレ状態にあり物価が持続的に下落していれば、消費者は今消費するよりも、将来消費したほうがより多くの財やサービスを購入できる。貨幣は置いておくだけで日に日に価値を増すのである。わざわざローンを組んでまで、将来の値下がりが予測されている住宅や自動車を購入しようとは思わないだろう。このように、将来にわたるデフレが予測されるとき、消費は減退する。

ちなみに、フィリピンのようにインフレ率が5%前後で推移している国では状況が全く異なる。ちょっとした小金が舞い込んだだけでも、人々は我先にと消費や投資に回す。経済学など学んでいない田舎の農民でも、ちょっとお金が入っただけで、サリサリストアを始めたり、裏庭で豚を飼ったりするのである。なぜなら、現金のままで置いておいても価値が目減りすることを知っているからだ。銀行に預けたときの預金利息(せいぜい1%)より、インフレ率の方が高いから、消費に回すか、投資に回すほうが合理的なのである。

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Photo by Keith Bacongco

デフレの害 6 投資の減退


また、企業にとってはただでさえデフレで人件費が相対的に高騰している上、上記のように需要が減退している中での新規投資はリスクが高い。その上、デフレ下では実質金利が高くなるから投資へのインセンティブが減退する。

例えば、銀行から借り入れるときの金利が3%だとする。100万円を借り入れたら、1年後に103万円を返済すれば良い。しかしここで、デフレ率が2%なら、1年後の100万円の実質価値は102万円になっている。つまり、1年後の返済額が103万円だとしても、それは実質的に105万円を返済しているのに等しいのだ。この5万円のことを実質金利と言い

実質金利=名目金利−インフレ率

の関係がある。

デフレのときは名目金利にデフレ率を足したものが実質金利となる。だから、今、ゼロ金利だの、史上最低の金利水準だの言われても、実際には 借り入れ金利+デフレ率 が借り入れコストとなるわけで、決して金利水準が低いとはいえないのだ(実際、70年代の高インフレ時代は、貸し出し金利が高くとも、実質金利はマイナスの水準だったし、バブル景気のときも実質金利は今よりも低かった)。

つまり、企業にとってはデフレによる賃金の相対的な高騰、消費の減退に加えて、実質金利の高止まりという状況に直面することになるから、投資のリスクは高くなり、積極的な投資を行おうというインセンティブがなくなる。

デフレの害 7 イノベーションの鈍化


一言で言うと、インフレは安全志向の貸し手からリスク・テイカーである借り手への所得の移転であり、 デフレは逆にリスク・テイカーである借り手から、安全志向の貸し手への所得の移転であると言える。

これまで見たとおり、インフレにより債務(借金)の実質的価値は減少するので、インフレの時には借り手が有利になる。逆にデフレのときは借り手が不利になる。社会で、借り手とは企業のことである。一般的に企業は銀行等から資金を借り、投資し、企業活動を行うことにより富(付加価値)を生み出す。また、企業活動は必ず成功するわけではなく、常にリスクを抱えながら投資を行っている。このリスクに対する報酬こそが利潤だと考えられる。しかし、デフレでは借金をすることが不利になるので、ただでさえリスクを取りに行っている企業は、より不利な条件に直面することになる。

反対に、貸し手とは安全を志向する主体である。貸し手はできるだけリスクを避け、投資活動よりは低利でもよいから銀行に貯蓄する。デフレでは、この安全志向の貸し手がより有利となる。

リスクをとらないことが有利な状況をつくりだしてしまえば、投資は減退し、経済は成長しなくなる。経済は、儲かるかどうかわからないにもかかわらず、エイヤッと投資する企業(=リスク・テイカー)がいて初めて回るものであり、そうしたリスクを負っての未知への挑戦こそが技術革新の原動力である。デフレはこのリスクを高め、ハードルを上げることによりイノベーションを鈍化させてしまうのだ。


デフレの害 8 円高の進行


最後に、円高について触れておく。

円高とは円が他の通貨に対して高くなることである。つまり、円の価値が高まることだ。

そもそもデフレの国の通貨の価値は日に日に高まっている。通貨の購買力が上昇しているからだ。その反対にインフレの国の通貨の価値(購買力)は下落している。この2つの通貨の交換比率は、その購買力に合わせてデフレの国(日本)の通貨(円)が高くなり、インフレの国(アメリカ)の通貨(ドル)が安くなることは必然である。

もちろん、為替相場は通貨の購買力だけで決定されるものではない。為替市場では通貨への需要と供給で交換レートが決定するから、購買力以外の要因も重要となる。その中でも重要なのは金利である。

日本の金利が低く、アメリカの金利が高いなら、日本の銀行で円を借りて、それを為替市場でドルに交換しアメリカの銀行へ預け入れれば、それだけで金利差分の利益が手に入る。これはいわゆる円キャリートレードといわれるもので、リーマンショック前までは活発に行われていた。この時、為替市場では円を売りドルを買う取引が行われるから、円安・ドル高に為替が動く。日本はデフレにも関わらず、円安が進行したのだ。

しかし、リーマンショック後は、各国ともに金融緩和により金利を大幅に引き下げたので、もう金利差は存在しない。金利差が為替を決定する要因として重要度を失えば、購買力の差が効いてくる。

このようにして、現在は一方的な円高が進行しているのである。

そして、円高が進行すれば、日本人の人件費は相対的に高くなる。企業は高い人件費を嫌い、生産拠点を海外に移すようになるのである。

最後に


クルーグマンによれば経済で重要なことは3つ。生産性、所得分配、そして失業である。この3つの中にデフレという言葉はない。



にもかかわらず、デフレがことさら重要だとするならば、それはデフレが生産性を低下させ、分配を歪め、失業率を増加させるからだということになる(もっとも、当時のアメリカ経済にとってデフレは想定外であるため、わざわざ議論されなかったというほうが正しいかもしれない)。

生産性の低下はデフレによる企業業績の圧迫、消費の減退、投資の減退、イノベーションの鈍化によってもたらされる。デフレは名目成長の低下だけでなく、実質成長までも抑制してしまうのだ。分配の歪みは、若年層の賃金低下によってもたらされる。また、デフレはそれ自身が借り手から貸し手への所得移転として分配を歪めてしまう。そして、失業率の上昇は企業業績の圧迫で発生し、円高の進行による企業の海外移転によって拍車がかかる。

このように、デフレは消費と投資の双方を鈍化させるから不況の原因となる。日本の20年の大部分はデフレ不況だった。さらに、デフレそれ自体が不況を伴わないとき(2004−2007年)でさえ経済にネガティブなインパクトを与えていると考えられる。この時期にインフレを伴っていたならば、日本は外需だけに依存せず、内需の拡大により、より大きく実質成長していただろうと考えられるのだ。

以上、企業業績の圧迫、失業の増加・格差の拡大、財政問題の悪化、債務問題の悪化、消費の減退、投資の減退、イノベーションの鈍化、円高の進行の8つがデフレの害だと考えられる。
posted by philnews at 06:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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