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フィリピン英会話ネット
2015年06月06日

100万人を雇用するフィリピンのBPO産業

フィリピンは近年高い経済成長率を達成している。例えば2012年は6.8%、2013年は7.18%、そして2014年は6.24%を達成した。この2012年以降の成長率はタイ、ベトナム、マレーシア、インドネシアといった周辺のASEAN諸国と比べてもフィリピンが首位である。フィリピンのこの10年を振り返ると、フィリピンはいま急速な産業構造の変化を経験していると言っても大げさではないだろう。

フィリピンの経済成長率
フィリピンの経済成長率.png

ASEAN諸国の経済成長率比較
フィリピンGDP成長率比較.png

フィリピンのBPO産業


この産業構造の変化をもたらしているのがBPO産業(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)である。ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)とは、企業運営上の業務やビジネスプロセスを専門企業に外部委託することを指すが、フィリピンの場合はアメリカを中心とした海外の企業からコールセンター業務を中心に委託を受けている。

2013年にフィリピンのBPO産業は90万人の労働力を雇用し155億ドルの総収入を得た。これはフィリピンのGDP2720億ドルの5.7%にあたる。フィリピンの労働人口は約4000万人だから、労働人口の2.25%でGDPの5.7%を稼ぎ出したことになる。BPO産業は2004年には10.1万人を雇用し13億ドルを稼ぎだすに過ぎなかったものが、その2年後の2006年には24万人を雇用し32億ドルの売上へと倍増した。そして、ほんの10年の間にその規模は10倍となった。

ちなみに人口の約1割が海外に居住又は就労するフィリピンは海外出稼ぎ労働者(OFW)から年間230億ドルの送金を受けており、これはGDPの8.5%の相当するが、このままBPO産業の成長ペースが続くと2016年には130万人を雇用し、250億ドルを稼ぎ出す産業となり海外出稼ぎ労働者からの送金総額を抜くのではないかとさえ見られている。さらには、2012年の段階で労働人口の32%が従事し、GDPの11.8%(256億ドル)を生み出した農業部門を付加価値額で抜くのも時間の問題だろう。また、BPO産業は労働者一人当たり2.5人の追加的雇用を小売り、交通、サービス部門に生み出すと見られているので、経済への波及効果はさらに大きくなる。最近街中に増えてきたスターバックス等の決して安くない飲食店やセブンイレブンを初めとした24時間営業のコンビニエンスストアーの増加も、コールセンター従業員を顧客としていると考えれば納得できる。

イーストウッドの成長


ここで現在、マニラ首都圏でコールセンターの中心地の一つとなっているケソン市のイーストウッド(Eastwood)について見てみよう。

イーストウッドは1997年にメガワールド・コープのアンドリュー・タンによって開発が始められるまでは、寂れた繊維工場が林立するエリアだった。タンはこの一帯16ヘクタールの土地をコールセンター、マンション、そしてショッピングエリアとして開発し、1999年にはPEZA(Philippine Economic Zone Authority:フィリピン経済区庁)からITパークとして認定を受け、税制優遇措置を得た。

これによりイーストウッドは現在59の企業で60000人が働く地域となり、その従業員を中心に25000人が居住、500の店舗が展開する一大複合エリアに成長している。ちなみに、日本の東映アニメーションもイーストウッドにスタジオを構え、250人のスタッフが動画を作成し、太いインターネット回線を用いて日本に送っている。あの『セーラームーン』も『ワンピース』も動画はフィリピンで制作されていたのだ。

イーストウッドの様子
Eastwood-City-Night-031.jpg

フィリピン中央銀行の調査によればBPO産業の従業員は平均で$8,849(2012年)を稼ぐが、これはマニラの最低賃金(日額481ペソ)の3倍にあたる。大学新卒の社会人の給与は一般的には最低賃金+α程度なので、新卒でコールセンターの職につけばいきなり一般の3倍の給与が得られるということを意味する。

サービスが海外へ売れるようになった


一昔前までBPO産業の中心地はインドだった。それが2010年にフィリピンの売上額がインドを抜きさり、世界一へと躍り出た。その理由の一つに、フィリピンの英語力の高さがある。インドでは大卒者のうちBPO産業で採用できるレベルの英語力を有しているものは10%程度とされているが、フィリピンではそれが30%に上る。特に、顧客であるアメリカ人やオーストラリア人にとって聞きやすい英語を話せることがフィリピンが好まれる理由である。

このような変化がもたらされたのは、何よりもまずインターネットが普及したことが背景にある。つまり、これまでは国内でしか販売できなかった「サービス」がインターネット回線を通してフィリピンに居ながらにして海外へ販売できるようになったのだ。これまでフィリピンが輸出できる商品といえば、鉱物資源であり、農産物であり、電化製品でありといった具体的な形をともなった「モノ」だった。そして、サービスを販売するためにはフィリピン人自身が海外へ出稼ぎに行き「労働力」として販売する必要があった。それが、ネット回線を通して海外へ出ることなく労働力を販売できるようになったのである。

フィリピンBPO産業の課題


ただし、フィリピンのBPO産業もすべてがバラ色というわけでもない。まず、アメリカを主な顧客としたコールセンターの場合、勤務時間をアメリカに合わせることになるので、フィリピン人が本来就寝しているはずの深夜に働くことになる。このため、コールセンターの従業員は昼夜逆転した生活になることが多く、体を壊す従業員が続出している。また、BPO産業は2012年だけでも137000人を新規雇用したが、これはフィリピンの大学新卒人口の25%にあたる。すでに、優秀なフィリピン人を継続的に雇用することが難しくなってきているのだ。

マカティのビル群から見上げた空
makati sky1.jpg

次に、現在、フィリピンのBPO産業の65%はコールセンター事業が占めているが、今後は電話によるサービスだけでなく、メール、SNS等の多様な媒体を使った事業が増えてくるので、そうした変化に迅速かつ柔軟に対応していく必要がある。さらにはWEBシステムやアプリの開発等、より付加価値の高い事業への成長が求められている。

フィリピンの一人当たりGDP(購買力平価 USドル)
フィリピン 一人当たりGDP.png


【参考】
Philippines’ Rise as Call-Center Nation Lures Expats Home

Phl closes in on India as top BPO site

It’s official: PH bests India as No. 1 in BPO
posted by philnews at 20:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | フィリピン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2015年06月01日

フィリピンの自転車事情

フィリピンに、特にマニラ首都圏に滞在してしばらくすると気づくのは、日本と比べて自転車をあまり見かけないことだ。国民全員が自動車やオートバイを買えるほど裕福なわけではないのに、それより安いはずの自転車もそれほど普及していない。そして庶民の足はバス、ジプニー、トライシクルといった公共交通機関である。大通りに沿った長距離移動はバス(一部LRTやMRTのような軽量高架鉄道)、車で30分以内の距離ならジプニー、そして、ジプニーを降りて家まではトライシクルと言った具合だ。

bike1.jpg

目的地が歩いて20分程度の距離ならば、自転車に乗ってしまえば5分で着きそうなものだ。しかし、これくらいの距離だと歩くことはまれでトライシクルに乗ってしまう。それだけで往復で何十ペソかがかかる。

マニラ首都圏で自転車が普及しない8つの理由


ではどうしてマニラでは自転車が普及しないのだろう?その理由を思いつくままに挙げてみる。

1. 一般道路は自動車が我が物顔で飛ばしているので自転車が走れない。
2. 歩道(側道)は自動車が駐車して塞いでいるので通れない。
3. EDSA大通りのような大きな道には信号や横断歩道がないため、横断するためには数キロおきにある歩道橋を使うしかないが、その際、自転車を担がなければいけない。
4. せっかく自転車に乗って目的地であるスーパーやお店に到着しても、自転車を止めるスペースがない。
5. 自転車に鍵を付けても、鍵を壊されるか担いでそのまま盗まれる。
6. 自転車本体が盗まれなくても、放置している間に付属部品が盗まれる。
7. 乾季は暑いので自転車を漕ぐと汗だくになる。
8. 乾季は良くても雨季はびしょ濡れになるので自転車は不便である。

少し挙げてみただけでも、どうやらマニラでは自転車に乗れる条件が整っていないと言える。とくに3番目のEDSA大通りが横ぎれないというのは深刻で、それこそ車体重量が20キロを超えるようなママチャリは歩道橋を担げるわけもなく、自転車は大通りに囲まれた狭い範囲の移動手段としてしか用をなさなくなる。

これが田舎へ行くと、それなりに自転車は使われていて、特に、村の高校生あたりが通学のために乗っている風景をよく見る。地方では車もそれほど多くないし、通行を妨げる大通りもない。すると購入費用以外にはお金の掛からない自転車が十分魅力的な交通手段となるのだ。

ryanbikes.JPG

ちなみに、フィリピンでポピュラーな自転車の種類はマウンテンバイクである。日本で見かけるシティサイクル(いわゆるママチャリ)や、ロードバイク、そして最近流行りのクロスバイクはほとんど見かけない(ママチャリは日本の中古車が輸入されて安価?で売られている)。舗装されていない田舎の道や、舗装されていても凸凹の多いマニラ首都圏では、頑丈なマウンテンバイクが合っているのだろう。

マニラ首都圏の主な自転車レーン


一方、マニラにも自転車を普及させようとする人たちはいるようで、街中に自転車レーンを設置する動きもある。自転車は渋滞を緩和し、環境に優しく、健康にも良いと考えられるからだ。具体的には以下の6つの自転車レーンがその主要なものである。

- Ortigas to Santolan along EDSA northbound (2.105K)
- White Plains from EDSA to Temple Drive in Quezon City (982.6 meters)
- Marcos Highway from Evangelista Street to Sumulong Highway in Marikina City (9.14K)
- Magallanes to Ayala Avenue along EDSA in Makati City (1K)
- Commonwealth Avenue from University Avenue to Tandang Sora in Quezon City (2.92K)
- Marikina Bike Lanes

この他、フィリピン大学ディリマン校構内やアテネオ大学マニラ校構内にも自転車レーンが設置されている。但し、上に挙げた自転車レーンの多くも、自転車専用道を新たに設置しているわけではなく、あくまでもこれまで歩道として利用されていた大通りの側道の一部を赤く塗って自転車レーンとしているだけだったりする。そのため、実際に自転車レーンを走ろうとしても歩行者を避けて走る必要があるため、結局はこれまでと同じく自動車道を走り続ける自転車利用者も多い。

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マニラに自転車が普及する条件


さきほどマニラに自転車が普及しない8つの理由を挙げたが、これらは1.道路及び歩道橋の整備状況 2.パーキングスペースの整備状況 3.盗難の防止状況 4.気候の問題 の4つにまとめられる。もちろん、公共交通機関や自家用車と自転車の購入・維持費用との損得勘定といった経済条件もこれに加えられる。

これらのうち、気候条件は操作不能なので考察の対象からはずすとして、政策的に操作可能なのは1〜3である。また、盗難防止はいまのところ困難であるので、人為的に整えられるのは道路及び歩道橋の整備とパーキングスペースの整備の2つということになる。その中でも短期的に実施可能で効果が高いのは、歩道橋への自転車用スロープの設置であろう。自転車で走っていて目の前を大通りに遮られると、もう、そこから先へは行けず途方に暮れる。この状況を改善することこそが、まず第一に必要なことだと思えるのだ。

このように、日本では普通に乗りなれている「自転車」ひとつとっても、それを日常的に利用できることは極めて経済的、社会的、インフラ的な様々な条件が整った上で初めて可能となっていると言えるのではないだろうか?

【参考】
The Bicycle Diary:Inquirer
Pedal to the metal: Are we really ready for the bike lanes that have sprouted around the metro?
posted by philnews at 16:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | フィリピン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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