フィリピンは毎年100万人を労働者として世界各地へ送り出し、統計上800万人以上が海外で就労するか、居住するかしている。また、統計に含まれない不法就労者の存在を考慮すると、実数は1000万人を超えるとも見られている(人口の約10%)。
その送金額は膨大で、2008年には150億ドル(約1兆5000億円)に達している。この額はGDPの約10%、国家財政とほぼ同額である。但し、統計に現れる送金額は銀行送金額だけなので、現金として持ち帰ったり、地下銀行等を利用したものも含めるとその額は何倍にもなると考えられる。
800万人の在留先はアメリカが約280万人、中東が約200万人と最も多く、日本にも20万人が在留している。また、100万人の新規の受け入れ先は中東が最も多く約50万人、アジア諸国が約20万人、アメリカは約3万人である。アメリカの場合、出稼ぎ先というよりは、移住先なのである。
一方、送金元はアメリカからが半分を占める。これはアメリカへ渡ったものは、医師や看護士、エンジニアなどプロフェッショナルとして働く者が多いこと、そして前述のように、アメリカからの送金の多くが銀行を通した正規ルートのものだからだと考えられる。
日本もかつてはフィリピン出稼ぎ労働者の主な受け入れ先で、2004年までは毎年8万人ものフィリピン人を歌手やダンサーとして興行ビザで受け入れていた。しかし、2005年に行われた法務省による省令の改正により、現在、その受入数は年間5000人程度にまで減少した。
これにより、単純計算でもフィリピンは日本からの送金を年間400億円程度失ったことになる。この額は日本による政府開発援助(ODA)供与額(無償・技術協力)の何倍にもあたり、経済的・社会的なネガティブ・インパクトは計り知れないものがあった。
日本は毎年多額のODAを供与する一方で、それよりもずっと大きなネガティブ・インパクトを与える政策転換を行ったのだ。それも国会での承認の必要ない、一省庁の行政権限で行える省令改正によって。
今回、アロヨ大統領が訪日中に、日本へフィリピン人の受け入れを要請したのにはそうした背景もある。
【参考】
http://en.wikipedia.org/wiki/Overseas_Filipinos
海外雇用庁 http://www.poea.gov.ph/
国家統計調整委員会 http://www.nscb.gov.ph/
・100万人、800万人の数字がどこから来たのか。(出所)
・ODAに有償を含めない理由。(もしあれば)
を、後学のために教えていただけないでしょうか。
コメントありがとうございます。
ご質問の100万人、800万人の出所ですが、【参考】にありますWikipediaの以下の記述を根拠といたしました。
「There are about 8.7 to 11 million overseas Filipinos worldwide, equivalent to about 11% of the total population of the Philippines.
Each year, more than a million Filipinos leave to work abroad through overseas employment agencies and other programs, including government sponsored ones.」
また、ODA供与額に有償を含めない理由は、有償援助は借款(借金)であり、返済の必要があるものですが、無償援助は返済の必要がありません。そのため、国際会計上、有償援助は「資本収支」として分類されるのに対し、無償援助は「経常移転収支」に分類されます。
同じく出稼ぎ労働者の送金は返済の必要がないお金ですので、国際収支上「経常移転収支」として分類されます。つまり、有償援助と無償援助では性質が異なりますので、同じ「経常移転収支」としての性質をもつ出稼ぎ労働者からの送金と無償援助のみを比較対象としました。
日本の政策変更がもたらしたネガティブ・インパクトに関しましては「従軍慰安婦と人身売買」の記事でより詳細を記述しましたので、ご参考いただけると幸いです。
追記ですが、Inquirerの「Next admin pressed on aid to OFWs 」という記事によりますと、「820万人以上が国外に居住し、そのうち少なくとも425万人が労働者である」との記述があります。また、「820万人のうち、390万人は移住者である」とのことです(Commission on Filipinos Overseas)。そしてNational Statistics Officeのデータによると2009年に出国した出稼ぎ労働者数は190万人とのことです。
ご参考まで。