予算案や法案は下院で発議・議決され、上院での修正提案・議決を経て、大統領へ送られる。大統領は法案の拒否権と修正提案権を持つ。上院議員(Senator)は全国区から選出されること、定数が少ないこと、条約の承認権を保有することから、一人当たりの持つ影響力は下院議員より大きく、上院は次期大統領の養成所とも考えられている。実際、歴代大統領14人のうち、9人までが上院議員経験者であった。一方、下院議員には各地の地主層を中心に伝統的な有力者が多く、選挙民からは地元へ事業や国家資源を引っ張ってくることが期待されている。
下院に議席を持つ政党は、選挙区議員を持つ10の主要政党と、政党名簿による議席をもつ16の少数政党がある。主要な政党としては、1907年にフィリピン最初の政党として結党され、歴代数多くの大統領を生み出したNationalista Party(下院8議席、上院4議席)、1945年にNationalista Partyから分裂する形で結党され、ケソン、キリノ、マカパガル大統領を輩出したLiberal Party(下院16、上院4議席)、1991年にNationalista Partyから分裂することにより結党され、エストラーダ大統領の支持基盤でもあるNationalist People's Coalition(下院28議席、上院2議席)、そして、1991年、ラモス大統領により結党され、現在はアロヨ大統領が所属する最大与党Lakas-CMD(下院141議席、上院4議席)などがある(( )内は現有議席数)。
しかし、フィリピンの場合、こうした政党に関する分類はあまり意味を持たない。そもそも政党間で政治理念の違いがあるわけではない上に、どの政党が勝とうが、最終的には大統領が所属する政党が絶対多数を占める最大与党になるからだ。
フィリピンでは大統領のもつ権限が極めて大きい。具体的には行政府の長としての行政統括権のほか、国軍統帥権、戒厳令発動権、条約締結権、海外からの借款の締結権、予算案を含む法案の拒否権、上級公務員の任命権など、非常に広範囲にわたる。つまり、大統領は国家資源の配分を独占的に握っているようなものだ。これらの国家資源へアクセスするためには、大統領に近づくことが必要なので、下院議員の多くはどの政党から立候補し、当選しても、そのときの大統領が所属する政党へと鞍替えする。だから、大統領が所属する政党が事後的に最大与党となるのである。
つまり、制度的にはアメリカ型民主主義に基づく議会制度・政党政治のシステムをもっていながら、実際の運用は伝統的な個人主義に基づいた、ボス支配の構図なのだ。
とはいっても、与党・自由民主党と、自由民主党出身者が主導権を握っている野党・民主党の間で政権交代が行われようとしている国の人間が偉そうなことは言えないのだが。
【参考】1987年フィリピン共和国憲法
List of Political Parties in the Philippines
自由民主党出身の民主党国会議員