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フィリピン英会話ネット
2009年10月26日

ベーシックインカムの財源

週末の「朝まで生テレビ」で出演者の1人(東浩紀)がベーシック・インカムに言及したらしく、にわかにベーシック・インカム論議が盛り上がっているようだ。ベーシック・インカムについては「政府はベーシックインカムの導入を」で論じたが、今回は、ベーシック・インカムの実現可能性について1)財源 2)労働インセンティブ 3)企業の生産性 4)物価上昇 の4つの問題について考えてみたい。


1)ベーシック・インカムの財源


ベーシック・インカムの財源は、国民の生み出す富にある。日本のGDPが年間500兆円、勤労者所得がその7割の350兆円だから、ベーシック・インカムとはこの350兆円のうちの一部を再分配するという話に他ならない。つまり、究極的には350兆円を超えない限り、財源は問題とならないといえる。もちろん、現実的には350兆円全てをベーシック・インカムに費やすというのは税率100%となり共産主義でもやらない話なので、より具体的な額と財源を考えたい。

ベーシック・インカムは所得の再分配の一種なので、簡単には高所得者から低所得者への移転であり、同時に、現存する社会保障制度の置き換え、一本化でもある。そこで、財源としては高所得者への増税と、現存の社会保障費の置き換えで確保する必要がある。

月額5万円を全国民に配分し、高所得者からは税金で相殺・回収することを考えて、実質的に5000万人に給付することになるとしよう(但し、この場合でも、税金により一部しか回収されない人と、全額回収されない人がいて、全体で給付額の方が多くなる人の数は5000万人を大きく超えるが、単純化のため、5000万人が全額を受け取ると仮定する)。そうすると必要額は5万円*12ヶ月*5000万人=30兆円となる。これだけでも無所得・失業中の世帯(家族3人)が月額15万円受け取れることと成る。

ベーシック・インカムは社会保障制度なので、目的が重複する社会保障は廃止・縮小する。そうすると、30兆円の財源を捻出するための試算は以下のようになる。

ベーシックインカムの財源

生活保護費 2.5兆円
年金の政府負担部分 10兆円
子ども手当て 5兆円
農家への個別所得保障 0.5兆円
所得税控除の撤廃 5兆円
所得税の90年水準への復帰 7兆円

合計 30兆円

このほか、失業保険の廃止、実質的に所得分配として機能している「無駄な」公共事業の廃止も可能となる上、行政コストの削減もできるので、確保できる財源はこれを大きく上回る。

以上から、月額5万円を5000万人に給付するベーシック・インカムは大増税無しに実現可能だということがわかる。

2)ベーシック・インカムとインセンティブ


ベーシック・インカムを受け取ると、労働者の働く意欲が阻害されるとすれば、生産力=GDPが縮小し、結果としてベーシック・インカムの財源が確保できなくなる。

これは例えば、月額20万円も支給されれば、もちろん大きく労働意欲も阻害されると考えられるが、月額1万円なら何の足しにもならないので、全く阻害されないだろうと考えることが出来る。つまり、ベーシック・インカムが労働意欲を阻害するかどうかは給付額によって左右されるのである。これが生活保護の場合、制度として、労働すると支給が止まるようになっているので、最初から労働インセンティブは阻害される。ベーシック・インカムの場合は、基本的に稼げば、稼いだだけ所得が増える仕組みなので、インセンティブの阻害は起きない。

つまり、ベーシック・インカムとして適正な水準とは、最低限ギリギリの生存は確保されるものの、それ以上の暮らしは望めないレベルに抑えることだと考えられる。そうすれば、セーフティーネットとして命を守る機能は持つが、より良い暮らしをしたいという欲求を満たすには不十分であるから、働く意欲を低下させることはないだろう。


3)ベーシック・インカムと企業の生産性


ベーシック・インカムの導入に合わせて、現存の最低賃金法は撤廃し、企業は自由な経済活動ができるようにすることが重要である。そもそも最低賃金は労働者の生活を守るために作られた法律・制度である。しかし、いまやベーシック・インカムにより、労働者は最低限の生存は保障されている。ならば、企業が労働者の生活を守らなくても、ベーシック・インカムという制度が守ってくれるので、これら企業に課せられた規制は必要なくなる。

また、企業にとっては失業保険の企業負担分からも解放される。だから、全体として、企業負担は軽減されることとなり、より活発な企業活動が可能となり、生産性は上昇するだろう。

ただし、最低賃金がなくなっても、必ずしも賃金が自動的に下落するわけではない。そもそも、賃金は労働力の需給によって決まっているとするならば、最低賃金法がなくなったからといって賃金が自動的に下落するものではないからだ。

4)ベーシック・インカムと物価上昇(インフレ)


ベーシック・インカムが導入されたところで、大きな物価上昇は起こらない。なぜなら、ベーシック・インカムの財源は勤労者所得350兆円の一部に過ぎない。マクロ(国全体)で見れば、この350兆円はこれまでも誰かの所得だったわけだから、市場に出回るお金の総量自体が増えるわけではない。

但し、高所得者から低所得者への所得の移転となるから、高所得者と低所得者の消費性向の違いの分だけ、インフレ傾向になることは考えられる。

また、現在、日本は20年近くのデフレ不況にあるが、その最も大きな原因は、労働者が将来の失業や老後の不安のために、消費を増やさず、貯蓄に回していることが指摘できる。これが、ベーシック・インカムが導入されると、失業後も老後も、最低限の生存は保障されるようになるので、貯蓄へ回す必要がなくなり、消費が拡大・安定すると考えられる。

つまり、ベーシック・インカムが導入されれば、日本は現在より消費性向が高く安定した経済となるだろう。



【関連】全員に毎月8万円一律に配れ(堀江貴文) 
「ベーシック・インカム」を支持します(山崎元)
ベーシック・インカムに賛成するのに十分なたった一つの理由(小飼弾)

posted by philnews at 22:25 | Comment(7) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
先日は、ベーシックインカム・実現を探る会の情報を取り上げてくださり、ありがとうございました。

財源論についても、いろいろな角度から検証されています。所得税案、消費税案、電子マネー案、公共通貨案、いろいろな論者の議論がぶつかる中で、国情や風土にあったBIが実現するのだと思います。
Posted by BI Lover at 2009年10月29日 11:38
BI Loverさん

コメントありがとうございます。こちらこそ、有用な情報を教えていただきありがとうございました。

さて、ベーシック・インカムの財源については色々な考え方があるようですね。ベーシック・インカム自体がまだまだ知られていないようですし、ようやく著名人の中でも田中康夫、東浩紀、堀江貴文、そして経済学者の飯田泰之などが積極的に発言するようになっているようですから、これから、議論が広まっていくのかなあと考えています。
Posted by philnews at 2009年10月31日 19:03
初めまして。
Googleのトレンド検索で、「Basic income」 を検索すると、フィリピンは国/地域で3位に、言語ではタガログ語が1位になっています。

http://www.google.co.jp/trends?q=Basic+income

「Basic income」 をタガログ語で何と言うのかは分からないので、詳しく調べることが出来ないのですが、フィリピンでは最近、ベーシック・インカムについての関心が多くなっているのでしょうか?
Posted by kyunkyun at 2009年11月15日 17:26
kyunkyunさん

貴重な情報ありがとうございます。

Basic Incomeで検索してみたのですが、特に情報は見当たりませんねえ。最低所得保障というよりは、どうやら「基本給」とか「基本収入」みたいな意味で使われているみたいですし。私の知る限りでは、政府やメディアの中でもベーシック・インカムの論議が盛り上がっているという話は聞きません。

でも、なぜGoogleでフィリピンやタガログ語が上位になっているのかは大変気になります。

ありがとうございました。
Posted by philnews at 2009年11月15日 21:53
こんにちは。
ベーシック・インカムについては、
「それが実施されると、人は怠惰になってしまうのではないか?」
という疑問が湧いて来ると思います。
そこで、「宝くじの場合はどうなのだろう?」 と思い、
今、色々と調べています。
(海外の研究では、実際に宝くじと所得保障についての論文もあるみたいです。)

残念ながら、日本には 「もし高額宝くじに当選したら?」 というような仮定のアンケートは幾つかあったのですが、実際に当選した方達への調査などはありませんでした。
そんな中、最近、イギリスで調査された資料を見つけました。
こちらのページになります。 (PDFファイルです。)

http://www.camelotgroup.co.uk/2000MillionairesMORISurvey.pdf

ただ、英語があまり分からないため、ネットの自動翻訳を使って読んでいるのですが、
こんな感じになってしまいます。

例えば、"Work, work, work" の項目

As they trudge into work each day, many people imagine winning the lottery and giving up the daily grind – but in fact, once this dream has come true not all winners choose to jack in their jobs.
Of those working before their win, a third (34%) choose to carry on working with around half (53%) of those even remaining full time.
Of the two thirds who do give up, half (49%) admit they miss work – proving that a life of wealth and luxury clearly is not everything.
Many choose to go back to work but for themselves as Lottery entrepreneurs – 35% have started, helped to start or invested in a business.
Across the UK, National Lottery winners are the moguls behind property and building firms, sandwich bars and taxi companies. There is even a lottery-style Roman Abramovich – a jackpot winner who bought a football club.

 仕事、仕事、仕事

彼らが毎日仕事に重い足取りで歩いて、多くの人々は宝くじに勝って、毎日のきしり音をあきらめることを想像します – しかし、実際、一旦この夢が実現するならば、すべての勝者が彼らの仕事をほうりだすほうを選ぶというわけではありません。
彼らの勝利の前に働いている人々のうち、3分の1(34%)はフルタイムのままになっているそれらの半分(53%)のあたりのでさえ働き続けるほうを選びます。
やめる3分の2のうち、半分(49%)は彼らが仕事を逃すと認めます – 富と贅沢の生命が明らかにすべてでないということを証明すること。
多くは、Lottery企業家として彼ら自身を除けば仕事に戻るほうを選びます – 35%は始まったか、始まるのを助けたか、ビジネスに投資しました。
英国の全域で、全国Lottery勝者は、資産と建築会社、サンドイッチバーとタクシー会社の後の大物です。宝くじスタイルのローマのAbramovichさえ、あります – フットボールクラブを買ったジャックポット勝者。

。。。。
機械による翻訳なので、仕方ないのかも知れませんが・・・
正確には、どのような文章になっているのでしょう・・?
よかったら、ぜひ教えて下さい。
Ps. 上記英文の 「&#8211」 は、ハイフン 「 - 」 が文字化けしている部分です。
Posted by kyunkyun at 2009年12月16日 22:48
kyunkyunさん

コメントありがとうございました。

頂いた資料、かなり長文でしたので、勝手ですが翻訳して記事にしました。ご容赦およびご参照いただければ幸いです。

ちなみに、コメントの日本語部分は機械翻訳とのことですが、かなり正確ですね。技術の進歩に驚きます。
Posted by philnews at 2009年12月17日 02:42
わかりやすい翻訳をして頂き、本当にありがとうございました!
翻訳を参考に調べてみたところ、同じ 『Camelot』 『MORI』 という名前のある調査を、もう一つ見つけることが出来ました。
年代は少し古くて、1994年か1999年? のようです。
http://www.ipsos-mori.com/researchpublications/researcharchive/poll.aspx?oItemId=1842

この調査の内容をネットの自動翻訳を頼りに、今読んでいるのですが、
やっぱりわかりにくいです。。。

◆ Camelot Group Plc, operator of The UK National Lottery, today Monday 15th November 1999, released the first ever major survey of National Lottery winners to discover what effect the lottery really has on happiness, lifestyles and relationships.

The unique survey carried out by MORI, marks the 5th birthday of The National Lottery and the findings represent the most complete snapshot of the generation of Lottery winners who have emerged since the first draw on 19 November 1994. MORI questioned 249 players who had won at least £50,000 and respondents included 111 winners of more than £1 million.

◆ Still working …

Around half of those winners who were in regular work before their win are still in the same job (48%), falling to 27% among winners of £2m or more. Just over half of the winners of more than £1m have given up work altogether (56%). Of those winners who have started a new job since their win (15%), around half have started their own business (45%), including almost all of those who have won more than £1m.

And finally …

Winning the Lottery appears to have very little impact on the winners' perception of their social class or their political persuasion. Fifty-two per cent of winners of £2m+ consider themselves to be working class, compared with 60% before their win.

◆ Technical details

・Camelot is the operator of The National Lottery and is committed to maximising returns to Good Causes designated by Parliament. Camelot is not responsible for distributing these funds.
・During September 1999, Camelot contacted around 350 Lottery winners to ask whether they would be willing to participate in the MORI survey. All those contacted had won at least £50,000 either playing individually or as their share of a syndicate win.
・A total of 270 winners agreed to participate. Each was telephoned by MORI during late September and early October. In all 249 telephone interviews were completed.
・To date The National Lottery has created 866 millionaires and raised over £7.5 billion for the six Good causes designated by Parliament.
・Further facts and figures about the Lottery, a full copy of the survey results, details on services Camelot provides to winners or interviews with National Lottery winners, can be provided by contacting the National Lottery Newsroom on the number below.

特に、この3箇所の部分を知りたいと思っています。
お時間がある時に、要約したものを教えて頂けると、とてもうれしいです。 (わがままなお願いばかりして、すみません。。)

※ philnewsさんに訳して頂いた文章を参考に色々調べていて、こちらのようなページも見つけることが出来ました!!
http://www.bls.gov/opub/mlr/1999/07/precis.htm#B

Estimating the Effects of Unearned Income on Labor Supply, Earnings, Savings, and Consumption: Evidence from a Survey of Lottery Players
http://en.scientificcommons.org/37631729
※ メールアドレスを送信すると、この論文の全文が読めるPDFファイルが無料で送られて来ると思います。
Posted by kyunkyun at 2009年12月19日 00:21
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