2009年と1992年の名目GDPが同じ、つまり、名目で見ると日本はこの17年間成長していなかったことがわかる。そして、より注目すべき所は1997年から98年にかけてと、2000年から2001年にかけて、それから2003年から2004年にかけての3箇所。このそれぞれの時期に転換点があったことがわかる。つまり
1. 97年まで上昇していた名目GDPが98年には下落に転じた
2. 一旦持ち直した名目GDPの上昇が2001年には下落に転じた
3. 2004年には名目GDPが上昇に転じた
の3つである。
より正確に見るために、今度は実質GDP成長率を見ておきたい。
ここでもやはり
1.98年にマイナス成長に転じた
2.2000年にプラス成長へ転じた実質成長率が2001年には再びゼロ成長に転落した
3.2003年から2007年まではプラス成長していた
ことがわかる。
このそれぞれの時期(転換点)にあった出来事を振り返るとちょうど
1.橋本政権による財政再建のための財政支出の削減と、消費税の引き上げ
2.小泉政権による財政再建のための財政支出の削減(国債30兆円枠)
3.小泉政権によるりそな銀行の救済(2003年)を契機とした株価上昇
と重なる。また量的緩和持続による日米金利差拡大により2005年からは円安が進行し、それに合わせ輸出産業が好調となり、外需主導の経済成長をしている(但し、財政支出が削減されているため内需の拡大は限定的だった)。
日本のインフレ率(デフレ率)推移
次に、インフレについて見ておきたい。物価が持続的に上昇する経済現象をインフレ、逆に物価が持続的に下落する現象をデフレと呼ぶが、このインフレ・デフレを測る指標には大きく分けてGDPデフレーター、企業物価指数と消費者物価指数がある。GDPデフレーターは名目GDPを実質GDPで割った指標であり、輸入物価の変化による影響を控除した国内の物価水準を表している。これに対し消費者物価指数(CPI)は消費者が実際に購入する段階での商品の小売価格(物価)の変動を表す指数であり、消費者にとってより直感的なものとなる。さらに、消費者物価指数(CPI)から価格が天候等に左右される生鮮食品を除いたものをコアCPI、さらに輸入価格に左右されるエネルギー価格も除いたものをコアコアCPIと呼ぶ。天候や輸入物価、またエネルギー価格の影響を除いたインフレ率を知るためにはGDPデフレーターないしはコアコアCPIを用いるのが望ましい。
グラフは過去20年のGDPデフレーター(名目GDP / 実質GDP)の推移である。推移がプラスならインフレ、マイナスならデフレ傾向にあると見ることが出来る。
このグラフから日本経済は1991年以降物価が上がらず、1998年からは一貫してデフレ傾向にあることが見て取れる。
同じくインフレ率を消費者物価指数(CPI)で見ておこう。
消費者物価指数推移
http://ngtn.blogspot.com/2009/10/20099_2757.html
より転載
グラフのうち、97年に急上昇している部分があるが、これは消費税の3%→5%への引き上げが行われたため。ちょうど2%分だけ上昇している。また2007年から2008年にかけてCPI総合と除生鮮(コアCPI)が急上昇しているが、これはエネルギー価格高騰が原因。除食料・エネルギー(コアコアCPI)はほとんど上昇していない。
このグラフから確認できることは、コアコアCPIについて見れば、98年から現在(2009年)までインフレ率がプラスになったことがないことである。GDPデフレーターから読み取れることと一致している。
日本のデフレと日銀の金融政策
物価の安定を目的とし、金融政策を行うのは日本銀行(日銀)であるが、その日銀はデフレに対応し、99年からゼロ金利政策を採用した。これまでの日銀の金融政策を振り返ると
1999年2月 ゼロ金利政策開始
2000年8月 ゼロ金利政策解除・金利引き上げ
2000年秋以降 ITバブル崩壊による不況入り
2001年3月 量的緩和政策開始
2006年3月 量的緩和終了・金利引き上げ
ここで重要なポイントは、これまで日銀は2000年と2006年、まだインフレが進んだとは言えない段階であっさりとゼロ金利・量的緩和を終了し、金利引き上げを行ったことだろう。2000年にはどの数値を見てもインフレ率はマイナスだったし、2006年にも少しもインフレ傾向を示すような状態にはなかった。
にもかかわらず、日銀があっさりと金利を引き上げたことから「日銀はインフレが進む前に、インフレ率が少しでもプラスに転換したら金利引き上げを行う」という予測が社会に成立してしまった可能性がある。デフレ下では個人は消費を、企業は投資を抑制することがそれぞれにとっての最適な戦略となる。一方、インフレ下では個人は消費を、企業は投資を促進することが有利となる。その上、個人も企業も「将来の価格」を予測して行動することから、将来もインフレが続くとの予測が成立しなければ消費も投資も拡大を望めない。
それなのに、どうやらこの国の中央銀行(日銀)はなにがなんでもインフレだけは食い止めようとしてきた(いる)のだ。
不況下にやってはいけないこと
以上の簡単なデータの検証から得られる教訓は
1.不況下では財政支出(公共事業)を減らしてはいけない
2.不況下では増税をしてはいけない
3.デフレ脱出のためには、インフレが長期持続していないうちに利上げをしてはいけない
の3つだと言える。どれも経済学的には初歩的な話なのだが、日本はこの20年に渡って、このやってはいけないことを繰り返し、わざわざデフレ・不況を持続させてきたと言えそうだ。
【出典・参考】Everybody Gets What They Want
世界経済のネタ帳

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日本の名目GDPのチャートは今更ながら恐ろしいことがおきているということを思い出させますが、この二つの下落局面はともに円高局面であり、輸入価格および輸出価格の下落、そして、円ベースでの原料価格の低下が大きな影響を与えていると思われます。したがって、いま必要なのは、円安政策であり、もっとも効果的なのは度肝を抜くような規模の財政の出動だと考えられます。所得税と法人税を半分にし、さまざまな控除をすべて廃止する代わりに、ことも手当てを一人当たり月額5万円程度出せば、そこそこのインパクトとがあるんじゃないでしょうか。あとは、介護・ごみ処理・ベビーシッター・家事手伝い等の、海外労働者を年100000人程度入れていく。問題を起こさなかった国の人間を優先する。ブラジル日系人等の労働ビザを発行するというの血統主義は廃止する。
フィリピンでビジネスをしていて思いますが、安い賃金の従業員をやとえれば、結構新しいビジネスを興してやっていけます。
とり続けた結果増加したと言えるでしょう。
財政支出については、このふくれあがった国債を
気にしないで支出し続けるという強い気持ちが無いと
変な話ですが、財政は好転しないのです。
景気がデフレが良くならないと、財政は
根本的には解決しない
財政再建は、景気対策、デフレ克服が必要で
財政を絞ること、増税は逆に財政を悪くする
という矛盾を理解できるかどうかなんです。
私はベーシック・インカムや給付金付き税額控除が本当に困っていて、なおかつ消費性向も高い若年層へとお金が行き渡り、ベストだと考えています。
インフレターゲットを伴う量的緩和と、財政出動拡大により内需を拡大させれば、普通に日本の景気は上向き、ゆるやかなインフレを伴う、普通の経済成長ができると思うのですけどねえ。
kさん
コメントありがとうございます。
おっしゃるとおりだと思います。
もしも日本が92年からずっと1.5-2%程度の名目GDP成長を続けていれば、今頃日本の名目GDPは700兆円程度にはなっていたんではないかと思います。そうすると、名目GDP比で見た債務割合も圧縮される上、そもそも実質で見た債務負担はインフレにより目減りしますから、国債残高の問題は今よりもずっと小さなものになっていたことでしょう。