11月の失業率
総務省よると11月の完全失業率は5.2%となり、10月の5.1%より0.1ポイント上昇した。失業率は7月の5.7%を最高に、5.5%(8月)、5.3%(9月)、5.1%(10月)と順調に下落していただけに、4ヶ月ぶりの上昇はサプライズと言える。
就業者数は6260万人。前年同月に比べ131万人の減少。これは22か月連続の減少。雇用者数は5466万人。前年同月に比べ85万人の減少。主な産業別就業者を前年同月と比べると、「製造業」、「建設業」、「卸売業・小売業」などが減少、「医療・福祉」「生活関連サービス業・娯楽業」などが増加しており、あいかわらず建設業・製造業での失業者を医療・福祉分野が吸収している傾向が見て取れる。完全失業者数は331万人。前年同月に比べ75万人の増加で、13か月連続の増加。
また、完全失業率は男性5.4%、女性4.9%と男性の方が高く、また、年齢別では15-24歳で8.4%、25-34歳で6.3%、35-44歳で4.7%、45-54歳で3.8%となっており、若年層ほど失業率が高い。

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鳩山内閣の成果
一般的に失業率は景気に対する遅行指標とされており、昨年9月(4.0%)のリーマンショック以降も1月(4.1%)まで失業率の上昇は見られなかった。それが2月(4.4%)から7月(5.7%)にかけて一直線で上昇していた。
8月(5.5%)から10月(5.1%)にかけて、失業率が下落へ転じたのは、麻生内閣による15.7兆円にも上る補正予算(5月成立)の効果と考えられる。それを9月に成立した鳩山内閣が補正予算凍結を行った「効果」が今回はっきりと現れたと言えるだろう。また、藤井財務相による円高容認発言と、それをきっかけとした円高進行による輸出企業利益の圧迫が今回の失業率の増加につながった。それに加え、日銀によるデフレの放置が経済回復を遅らせ、失業率の回復を阻んでいる。
つまり、今回の失業率の増加(高止まり)はデフレの放置、補正予算の凍結、そして一時の円高の進行の3つの要因によると考えられ、これらは鳩山内閣の「成果」と言えるだろう。
10年度予算案
12月25日、10年度予算案が閣議決定された。国の予算は財務大臣(財務省)が予算案を作成し、閣議決定の後、内閣として国会に提出、国会の承認を受けた上で本予算が成立する。
10年度予算案では、予算総額92兆2992億円(うち一般歳出額53兆4542 億円)、歳入は37兆3960億円、税外収入が10兆6002億円、そして新規国債発行額は44兆3030億円となる。
10年度予算の特徴は、公共事業費を前年度比18.3%減の5兆7731億円と1.3兆円削減する一方、子ども手当に1兆7465億円、高校無償化に3933億円、農業の戸別補償に5618億円を支出することだろう。
子どもを持つ家庭の扶養控除は廃止されるものの、月額2万6000円の子ども手当と、年間12万円(公立)の高校無償化の実施により、子どもを持つ家庭はこれまでよりも収入が増えることになる。

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「コンクリートから人へ」の現実
「コンクリートから人へ」と言われるように、今回の予算案は一言で言えば公共事業を削減して一部の人たちに直接給付しようという話なのだが、これまで指摘してきたように子ども手当は景気対策としては弱く、公共事業を削った分だけ失業者が生まれ、なおかつ、直接給付を受ける対象はそれら政策転換により生まれる失業者ではない。つまり、「コンクリートから人へ」は新たな格差を生むことになる。
来年の予算92兆のうち、44兆円を新規国債発行で賄うわけだが、この金額は税収を超える。また、一般歳出額53兆4542 億円のうち実に27兆2686億円が子ども手当を含む社会保障費として使われ、一般歳出の半分を超える。これは見方を変えれば、恒常的な支出となる社会保障費を国債と埋蔵金を財源として賄おうという話ともとれる。しかし、今回の予算によりいわゆる埋蔵金は使い切ることになるので、来年からの財源の目処がわからない。
社会保障とは本来、所得の移転である。それも高所得者から低所得者への移転でなければ意味が無い。しかし、今回の予算案を見る限り、社会保障費の財源を国債と埋蔵金に求め、なおかつ、所得の移転先は「子どもを持つ家庭」であり、決して低所得者対象ではない。むしろ公共事業削減による失業者が増加するのが必然となる 予算に見える。
不況下で大規模な予算を組んだこと自体はプラスに働くので評価できるものの、今後、海外の景気回復に乗じた日本の輸出拡大や、金融政策によるデフレの克服が伴わなければ、かなりシビアな状態になることも予想される。
注:一般歳出とは、一般会計予算で歳出全体から、国債の元利払いと、地方交付税交付金と地方特例交付金を引いたもの。社会保障、公共事業、文教及び科学振興、防衛、その他の政策的経費で構成される。
【参考】
総務省・統計局
10年度予算案、一般会計総額は過去最大92.3兆円

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確かに、マニュフェストの全てを実現することはできませんでしたが、考えてみれば、マニュフェストの数が膨れ上がったのは、それだけ前政権与党自民党が、庶民向けの政治をサボっていたから、ということだと思うので、リーマンショック以後の経済状況も考えれば、マニュフェストは、緊急性の高いものから順番に、着々と実現に移してもらえれば良い、と私は思います。
でも、政治を忘れて連立政権の足を引っ張ることばかり考えていると見える自民党の存在があり、それに協力する人間達が、財界や官僚の中に存在していると思える現状を考えると、これからも、連立政権の前途に、苦労は多いだろうと思います。
けれど、「庶民のための政治」が一番のマニュフェストと思うので、それを実現するために、頑張って欲しいと願っています。
それにしても検察は、自民党の影響下にあるのでしょうか?どうも私には、自民党に甘く、民主党に辛いように思えてなりません。
自分でも猜疑心が強すぎるかも?と思いますが、今年の政権交代まで、検察も、自民党に予算を人質に取られていたような状況だったことを考えると、もしかしたら、それに絡んで何かあって、自民党と検察が結び付き、それが今も続いているのかも?などと妄想してしまいます。私は被害妄想的なのかもしれませんが…。
本当に私は被害妄想的なのかもしれませんが、この頃、マスコミ関連のことでも、気になっていることがあります。
それは、この頃、いわゆる自民党贔屓と思われるマスコミ以外のマスコミの報道番組でも、スポンサーの関係なのか?自民党が喜びそうな報道の仕方を、見るような気がすることです。(昨年の秋、当時のトヨタの社長が、「自民党に厳しすぎる報道番組とのスポンサー契約は降りる」という意味の、問題発言をしていたのですが、現実に、今そういうことが起きているのかもしれない?と私は危惧しています。)
NHKも、良心的と思える番組もありますが、やはり、自民党が喜びそうな報道の仕方をしている?と思ってしまうことがあります。(確か、現在のNHKの会長は、財界出身の人だったと思います。)
私は心配性が過ぎるところがあるので、被害妄想の可能性もあるとは思いますが…。
連立政権には、様々な妨害に負けずに、頑張って欲しいと願っています。
コメントありがとうございました。
私も緊急に救済を必要とする人達への手当てを最優先とすることは大切だと思います。そうした意味で、今の日本に必要なことは、緊急に救済を必要とする、増加してしまった失業者対策かと思います。もちろん、民主党も失業者対策として「職業訓練を行う」などの対策を打ち出していますが、景気が拡大しないなかではそもそもの雇用数は増加のしようがありません。そうした意味でも、必要なのは景気の拡大であり、それを可能とする財政政策と金融政策の組み合わせでしょう。
こうした政策は、民主党だからとか、自民党だからとか政党やイデオロギーの問題ではなくてただの「技術」の話に過ぎません。例えていうなら車の運転と同じでしょうか。ドライバーのイデオロギーと関係なく、車(経済)をコントロールする能力のみが問われるべきなのです。
そうした意味で、現在の民主党の政策はあまりにもお粗末でしょう。縮小してゆくパイをどのように分配するかの話しかできていません。まずは、パイを拡大し、全員に行き渡るようにすること。それは可能だし、普通にやるべきことでしょう。
一方で、今では自民党はすでに解体寸前に弱っていますから、自民党の復権に期待しても無理が有るような気がします。デフレ不況下で失業率が5%を超える経済状況は、一刻の猶予もありません。今は党に関係なく、とにかく経済運営のできる人材が重要ポストに付き、事にあたることが重要かと考えます。
この日本経済のお粗末な結果をすべて民主党のせいにするのはちょっと無理があるのじゃないでしょうか。
コンクリートから人へという政策の転換は日本にとって非常に重要な転換であり、短期的な痛みを和らげるために長期的に有用な政策を批判することは短絡的・ポピュリスト現状批判に限りなく近いように見えます。コンクリート投資を続けろということですか。
党に関係なく経済運営のできる人という部分は全く合意できます。ただphilnewsさんが現政権の批判以外にいったい何を言いたいのか、よくわかりません。
コメントありがとうございます。
今の経済の現状に関しては、これまでも一貫して、この20年間の自民党(特に橋本・小泉政権)のミスマネジメントと日銀の無策が原因だと批判してきております。その上で、今回、政権交代した民主党のおこなった「補正予算の執行停止」が明らかに、経済にマイナスに働いたことをこの記事では論じております。補正予算の凍結がまずいことは、それが発表されたときに批判しておりますが、今回、やはり失業者を増加(高止まり)させたと思います。
「コンクリートから人へ」については、補正予算停止とは比べ物にならない建設部門での失業者の増加が予測されますが、それについての対策が打ち出されること無く、「子どもを持つ家庭」と「農家」へと所得移転がなされることは大きな問題だと考えます。例えば、民主党は建設部門で生まれる失業者を介護部門で吸収すべく「職業訓練」を失業者対策として打ち出しておりますが、必要なのは職業訓練ではなく、自然と労働力移動が起こるような介護部門での労働条件の改善だと思います。しかしそれについての予算計上は微々たるものです。失業者は確実に生まれるのに。
また、記事で指摘した「来年からの財源の目処がわからない」という部分につきましても、昨日、「消費税増税論議」が民主党の中から飛び出したようで、やっぱりかと落胆しております。
なぜなら、消費税は逆累進性の問題を抱えており、一言でいえば、低所得者から「子どもを持つ家庭」「農家」への所得移転が行われるということになるからです。これでは本来の社会保障としての意味を持たない上、財政再建を目指し、緊縮財政と増税を同時に行った橋本政権の二の舞です。これについては民主党主導というよりは、まんまと財政再建派である財務省に丸め込まれたのだと思います。
あと「コンクリートから人へ」に対して言いたいことは新しい記事としてまとめましたので、ご参照いただければ幸いです。