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2010年04月15日

債務残高の国際比較


債務残高の国際比較


下の図は日本の財政問題を説明するときによく用いられる、財務省のサイトに掲載されているグラフである。日本、アメリカ、カナダ、イタリア、ドイツ、フランス、イギリスの先進7カ国(G7)の債務残高の対GDP比率を表している。

債務残高の対GDP比(国際比較)
債務残高の対GDP比(国際比較)

この図を見ると、確かに日本の債務残高比率だけが異常に突出し、95年の80%台から一貫して上がり続け、2009年には180%を超えていることが理解できる。この図を見せられれば誰でも「日本は一刻も早く財政再建に着手しなくてはいけない」と思うことだろう。

しかし、日本の債務残高比率だけが一貫して上昇しているのは、何も日本だけが債務残高を増加させ続けているのが原因ではない。他のG7各国も一貫して債務残高を増加させているのだ。しかし、不思議なことに、債務残高の国際比較をGoogleで検索しても、それを示すグラフは一向に見つからない。仕方が無いので、筆者が作成してみた。なお、用いたデータはIMFのWorld Economic Outlook Databaseである。

Government Debt G7 comparison.jpg
債務残高の国際比較(実額)

データは各国の債務残高を1989年を基点(100)として20年間のデータをプロットしたものだが、赤線で示した日本は確かに債務残高を一貫して増加させてはいるものの、他国と比較して特別に突出しているわけでもない。フランスやドイツの債務残高の増加割合は日本よりも高い。

名目GDP成長の国際比較


ではなぜ、財務省のグラフでは日本の債務残高だけが突出して見えたのだろうか?種明かしをすると、最初のグラフは債務残高の対名目GDP比を示したものだからである。日本を除く他国はこの20年間、一貫して名目GDPの成長を達成していたのに対し、日本だけが成長していなかったのだ。

次のグラフはG7の名目GDP成長を比較したものである。同じく1989年を基点(100)として、20年間のデータをプロットした。この20年間で日本を除く全てのG7加盟国が軒並み2倍から3倍のGDP成長を見せている中で、日本のグラフだけほぼ水平を這っている。なんたるざまだ・・・・・

GDP G7.jpg
名目GDP成長の国際比較

財政問題の元凶はデフレ


またここで種明かしをすると、日本の名目GDPだけ成長していない原因はデフレにある。下のグラフは先進7カ国の1989年から2009年までの消費者物価指数を2000年を基準点(100)として示したものである。G7の中で、水色で示した日本だけがほぼ水平、いや、むしろ下落していることが確認できるだろう。

消費者物価指数の推移(国際比較)
消費者物価指数の推移(国際比較)

この20年間、日本、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランスの先進7カ国(G7)の中で日本だけがデフレで停滞し、他の国々はインフレを伴った経済成長を達成していたのだ。よく、デフレの原因として中国からの安い製品の輸入を挙げる人たちがいるが、中国が原因ならば、日本を除く他のG7各国がインフレであったことの説明がつかない。つまり、この20年間のデフレは日本固有の問題なのだ。そして、このデフレこそが日本の債務残高の対GDP比を突出させた元凶だったのである。

財政問題の解決方法


債務が長期的に見て持続可能であるか、それとも財政破綻するかは債務の(名目)利子率と名目GDPの成長率で決まる。なぜなら、債務(国債)は利子返済ができている限りにおいては破綻しないし、利子返済ができるかどうかは歳入によって左右されるからだ。そして歳入(税収)は名目GDPに比例して増加するので、名目GDPの成長率が利子率よりも大きければ破綻しえないのである(ドーマーの命題)。

財政問題の議論では、すぐに「増税」と「緊縮財政」により歳入を増やし、歳出を減らすことが解決策だと説明される。しかし、以上の議論により、それが全くのデタラメであることが示されただろう。デフレ不況下の日本で増税・緊縮財政などやれば、経済はますます縮小し、デフレはより深刻化、名目GDPがマイナス成長すれば増税を持ってしても国債の利子返済が可能な歳入が得られなくなり、本当の財政破綻へと突き進むことになることは目に見えている。

財政再建のために日本が一刻も早くやらなくてはいけないことは、まず、デフレの克服である。デフレを克服しない限り、名目GDPの成長は達成されない。そしてそれは、日本銀行によるインフレ目標を伴った金融緩和(リフレ政策)なしには達成されないのだ。

【関連記事】
日本経済 過去20年の推移
日本とフィリピンのGDP推移
【出典】
世界経済のネタ帳
International Monetary Fund
財務省
posted by philnews at 03:06 | Comment(4) | TrackBack(2) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。

債務残高のGDP比率はよく引用されるデータですが、
その理由まで踏み込んだものは恥ずかしながら初めて見しました。

自分でこれくらい計算しなければ恥ずかしいくらいなのかもしれませんが。

事実に基づいた、とても良心的なブログですね。
今後またお邪魔させてください。
Posted by 高田 亨 at 2010年05月03日 00:30
高田 亨さん

はじめまして。コメントありがとうございました。

債務問題を議論するときには、本当は債務残高のGDP比率を考えればよいのです。ですから、財務省のサイトやその他のサイトでも最初のグラフしか掲載されていないことは仕方がないのかもしれません。

そして普通の国ではグラフからわかるように、債務残高/名目GDP比はほぼ水平です。つまり、それほど大きな問題ではない。ただし、それは普通の国ではゆるやかなインフレが常態であり、それが普通の経済だからです。まさか日本のようなデフレが何十年も続くなんて、想定もされていなかったのだと思います。

債務残高/名目GDP比で日本のような突出した伸びが見られたとしたら、確かに異常事態なのです。但し、その異常とは分子にあたる「債務残高」の部分にあるのではなく、分母にあたる「名目GDP」の部分にある。このことが一般的には理解されていないのだろうと思います。なおかつ、財務省は財政健全化のためだけに意図的にミスリードさせたと考えざるを得ません。そして新聞をはじめとするメディアもそうした財務省の流す情報を報道するだけで、データを批判的に検討することを怠っているのだと思います。

実際、有力な政治家の多くも増税や歳出削減の議論ばかりしていることが不思議でなりません。

それでは今後ともよろしくお願いします。
Posted by philnews at 2010年05月03日 22:24
デフレが財政に悪影響を及ぼすことは理解していたつもりですが、恥ずかしながらきちんと踏み込んで考えたことがありませんでした。このデータはもっと世の中に広めていく必要がありますね。
財政が悪化=>だから増税しようというのは全く的外れな解決策であることをきちんと国民が知っておく必要があると思います。
それにしてもこの20年間の日銀の罪は重いですね。
Posted by 浦上 at 2010年07月14日 15:19
浦上さん

コメントありがとうございます。

本当に、おっしゃるとおりです。政治家の議論を見ても、メディアの議論を見ても、本来、日本の財政問題を論じるには前提条件として「デフレこそが諸悪の根源」であることが理解されていなければいけないはずなんですが、誰もそのことには触れません。

有権者も十分な情報の無い中では正しい候補を選んだり、正しい政策かどうかを判断することさえできなくなります。結果、デフレ不況下での増税・歳出削減を消極的にではあれ支持してとんでもないことになりそうです。ただでさえ、20年もデフレを続けたせいで3200兆円も犠牲を払うという信じられない状況なのにもかかわらず。

もっと有力なメディアや影響力のある人が、このブログで書いた内容を広めてくれれば良いのですけどねえ。
Posted by philnews at 2010年07月15日 01:21
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