フィリピン大統領が辞任しない理由
フィリピン大統領が辞任しない理由として一番大きいのは、大統領の利権の大きさだろう。フィリピンの場合、大統領には行政統括権のほか、国軍統帥権、戒厳令発動権、条約締結権、海外からの借款の締結権、予算案を含む法案の拒否権、上級公務員の任命権などあらゆる権力が集中するが、その中でも大統領にとって一番魅力的なのは「金」を左右する権力である。
例えば、フィリピンでは下院議員一人当たり年間7000万ペソ(1億4000万円)、上院議員は2億ペソ(4億円)がPriority Development Assistance Fund (PDAF:優先開発支援資金:通称ポークバレル)として分配される。この年間7000万ペソのお金を議員の裁量で使えることがフィリピンの国会議員の多くにとっての一番の魅力なのだが(執行額の半額が議員のポケットに入るといわれている)、このポークバレル、執行するためには大統領の署名が必要となる。野党に所属し、大統領に嫌われると、国会議員の権力の源泉ともいえるこのポークバレルが執行できなくなる。これがフィリピンの国会議員は常に大統領の与党に乗り換える理由であり、国会議員が大統領に反対しない最大の理由である。フィリピンの大統領はポークバレル分配の権限を握ることにより議会を抑えているのだ(そのため、エストラーダ大統領も、アロヨ大統領も憲法に定めた「国会による」弾劾手続きにより罷免されることがなかった)。
このように本来、予算の作成を行う国会を抑えているので、大統領は憲法で定められた拒否権以上の権力(影響力)を予算案に対しても持つことになる。国家予算の規模は年間1.5兆ペソ(3兆円)だが、この使い道について、国会議員は大統領の意向には逆らわない。もちろん、予算案に限らず、どのような法律に関しても、国会議員は大統領の意向を無視しないだろう。
国家予算以外も大統領の財布
また、大統領のもつ人事権・任命権も金に結びつき、大統領にとって強力な武器となる。人事権は各省庁の大臣・上級公務員レベルだけでなく、政府関係機関の長も任命できるもので、例えばその中にフィリピン宝くじ協会(PCSO)も含まれる。PSCOの売上げは年間500億円程度あるのだが、このうち15%が運営経費、55%が当選金として払い戻され、残りの30%がチャリティー基金として用いられることになっている。つまり、年間150億円がチャリティー基金として様々な目的で使われるわけだが、大統領はこのお金の使い道についても強い影響力を持つことになるのだ。エストラーダ大統領は違法賭博フエテンの上がりをポケットに入れていたことで退陣に追いやられたが、なにも、違法賭博の総元締めでなくとも、公的な賭博の総元締めになれるのである。

フィリピン歴代政権支持率推移
このように大統領であるだけで、強大な権力・金が手に入るので、フィリピン大統領は支持率がどれだけ低下しても決して辞任などしないのである。
【参考】President controls pork barrel - DBM official

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なぜフィリピン経済が伸びないのか、その一端が理解できたような気がします。
コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、フィリピン政治はフィリピン経済が伸びない原因の一端かと思います。但し、実のところ、フィリピンの方と接していると何でも「政治が悪いから」「大統領が悪いから」と自分達の責任さえ政治のせいにしてしまうことが多々あります。
本当は、政治は確かに、原因のひとつではありますが、全てではないと思います。では、フィリピン経済が伸びない原因についてですが、それはまた余力がありましたら、追々記事にできれば良いなあと考えています。
少しはフィリピンの事が解り参考になりました。
確かに悪い理由は政治が全てではないですが、人間性など色々だと思いますが、私は政治家になる人の人間性だと思います、私服を肥やす!とか。
またその政治家になるにはよっぽどの努力(あまり意味がないですが)か、コネ、金持ち、人気が現実と思いますが本当のところどうなのでしょうね?
コメントありがとうございます。
フィリピンの政治に関しては、基本的に地主層や財閥等の既得権益を保護することが第一の目的となっている部分がありますので、なかなか変革をもたらす人物が現れるのは難しく、仮にエストラーダのように、そうした背景なしに大統領になっても、辞めさせられてしまうわけです。人柄では良い人であろう現アキノ大統領も国を代表する地主階層出身なわけで、既得権益を侵害するような法律はまず作らないだろうと考えられます。
そして、政治が国内地主・財閥の既得権を守るため、フィリピンは外資導入がアジア諸国の中でも最も遅れています。フィリピンは外資を歓迎すると言いつつ、実際は国内地主・財閥と競合する分野については様々な制限を設けて受け入れを拒否しています。これが産業の発展、技術の進歩、雇用の増大を抑制することになり、経済水準がタイ、中国、インドネシア、ベトナムなどに次々と追い抜かれていく状況を生んでいます。
例えば、外国人がもし1000万円持っていたとしても、フィリピンで自由に投資できる分野はないと思います。思いつく商売のほとんどは外国人投資が禁止されているか、現地パートナーが60%以上出資することを条件にしているか、自分のお金なのに現地人名義で投資する(これは違法)しかありません。
これだと、本来生まれるはずだった雇用や生産活動は行われず、市場競争も生まれませんから、既得権を持った財閥系企業は何の苦もせず左団扇で過ごせるわけです。
ありがとうございます。
私は「神の子」というDVDを観ました。
今まで、フィリピンにあまり関心がないため何も知りませんでした。
観た感想は、政府があまりに国民のことをないがしろにしている。っと感じました。
改めて、日本に生まれてよかったとも思いました。
国内にいてると、ああでもないこうでもない、政治家はおかしい、と思うことがあるけど全てにおいて守られていますね。感謝しないといけないと思いました。
フィリピン政府は国をよくするよう、国民の生活を守るために何を具体的にしているのでしょうか?
私はあまりに関心がなかった為何も知りません。
これからは関心をもって勉強したいと思います。