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2012年12月19日

安倍総裁の掲げるインフレ目標政策


2012年12月16日投開票の第46回総選挙では安倍晋三率いる自民党が衆議院480議席のうち294議席を獲得し圧勝した。

今回の選挙の争点は、脱原発、TPP参加の是非、そして消費増税などが挙げられていたものの、新聞の出口調査や選挙結果を見ると、有権者が最も重視したのは景気回復であったと考えられる。

安倍総裁の掲げるインフレ目標政策


そこで注目すべきなのが安倍総裁のうちだした経済政策(景気対策)である。安倍総裁は自民党の経済政策としてインフレ・ターゲット政策を打ち出した。安倍総裁の提唱するインフレ・ターゲット政策は以下の内容にまとめられる。

1. 3%のインフレ目標の設定
2. 政府と日銀の間で政策アコードを結ぶ
3. 日銀によるコミットメントと説明責任
4. 必要ならば日銀法の改正
5. 物価安定だけでなく、雇用の最大化
6. インフレ率3%までは無制限の金融緩和
7. インフレ期待の形成を目的とする
8. これらの効果を高めるための公共投資の拡大

これは単なる量的緩和に留まらず、インフレ期待の形成に働きかけることを目指したリフレ政策(デフレからマイルド・インフレへと復帰させる政策)であることが見て取れる。また、これはこれまでリフレ論者が提唱してきたことを見事に具体化したものでもあると同時に、金融緩和だけでなく、それを支援するための財政政策もセットとなっていることが特徴である。

市場の反応


安倍総裁のインフレ目標政策の発表を受けて、いち早く反応したのが為替市場と株式市場であった。デフレは通貨高(円高)を必然化するが、この発表を受けてしばらくして、これまで進行していた円高が円安へと方向転換した。同時に、輸出企業を中心とする株価も上昇へと転じた。

yen dollar.jpg
直近3ヶ月間の為替の推移

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直近3ヶ月間の株価の推移

円高、株安については3年間も政権を担当した民主党がなんら有効な対策を打てなかったにも関わらず、まだ、首相にさえなっていない野党党首の演説一つで、見事なまでに円安・株高へと転換したのである。

民主党が選挙で大敗した理由


筆者は2009年の総選挙の前に「本当は一番重要な「雇用・経済」の項目をマニフェストの一番最後にもってきて、選挙演説では税金の無駄づかいと天下りの根絶に焦点を置いているような政党が、どうやら政権与党になってしまうようだから、日本経済は今後4年間、回復しないということになるのかもしれない。」と書いたが、残念ながらこの予想が的中してしまった。民主党政権成立後には、その経済政策がどれも個別のミクロ対策であり、マクロ政策が一つもないことを批判してきたが、これも最後まで改まることがなかった。

民主党政権は経済政策を持っておらず、財務省および日銀のいいなりとなるまま消費税増税、復興税導入、そしてデフレ政策の継続を推進し、その結果、空前の円高進行、失業率の高止まりを特徴とするデフレ不況から抜け出すことができなかった。民主党は政権にある間、デフレ脱却を掲げていたものの、安部総裁がインフレ目標政策を掲げたとたんに野田首相を始めとする民主党議員がこれへ一斉攻撃を加えたことなどみても、民主党のいうデフレ脱却がポーズに過ぎず、口先だけのものであったかがわかる。

民主党はマニフェストで掲げた子ども手当て、最低保障年金、高速道路無料化などが予算不足によりことごとく挫折する一方、マニフェストにはなかった消費税増税法案だけは成立させた。そもそもパイを拡大することなく、分配の量だけ増やす政策が実現不可能なことくらい最初からわかっていたのだ。

国民はこうしたマニフェストで掲げた政策は実現できず、そこにない政策だけ「命を賭けて」実現させた民主党に心底失望したのである。今回の自民党の圧勝は自民党への積極的支持というよりも、民主党への失望がもたらしたのである。

安倍政権の展望


安倍総裁の掲げるインフレ目標政策の前途も万全とは言えない。なぜなら、朝日、毎日を中心とするマスコミ各社はこれまで徹底してインフレ目標政策を批判してきたし、デフレで苦労しているはずの経済団体の代表らの中にもインフレ目標政策を批判するものがでるほどに、この国は「もう経済は成長しない」だの「デフレで当然」だの考えている人たちが多くいる。

さらには、今回の選挙で圧勝した自民党内にこそ根強いデフレ派議員がいるのである。例えば、谷垣前総裁、そして石破幹事長などは、2010年の参院選で自民党がインフレ目標政策を掲げた際、自党の公約であるにも関わらず、これに否定的なコメントを述べている。また、振り返れば90年代から09年の政権交代まで、デフレ政策を許容したきたのは自民党自身であった。

こうした背景を考えると、安倍総裁が何者にも妨害されず、インフレ目標政策を実施に移すことは容易ではない。そのためにも、まずは、財務大臣、そして最大の山場は来年(13年)4月に任期が切れる白川日銀総裁の後任人事にあることは言うまでもない。ここでリフレ派の人材を登用することができたならば、その後はかなり安心できる。

インフレ目標政策の導入は、この、最初の4ヶ月で趨勢が決まるといっても過言ではないだろう。

-付記-

安倍総裁のインフレ・ターゲット政策に関するスピーチ(該当箇所)


安倍総裁はこれまでもインフレ目標政策が持論ではあったものの、政権奪取後の経済政策として明確に述べたのは11月7日の日本アカデメイアでのスピーチでのことだった。以下はその該当箇所を字起ししたものである。

私たちが政権を取ったら、日本銀行と政策アコードを結んで、インフレターゲットを設けたいと思います。目途ではなくてターゲットであります。日本銀行の総裁及び日本銀行には、コミットしていただいて、それが達成できなければ、責任を取ってもらう。達成できない場合は、その説明責任を果たしてもらうということであります。(中略)

そこで、大切なことはしっかりと、日本銀行が責任を伴い、コミットしていく。私は3%が良いのだろうと思いますが、ここは専門家の皆さんに教示をしてもらって、インフレターゲットをアコードの上に設定をしていく。これが出来なければ日銀法を改正して、日銀法の中にある物価安定ということが使命として書かれていますが、物価安定だけでありますからもう一点、多くの中央銀行が背負っている役割である雇用をちゃんと守っていく、あるいは雇用を最大化していくという実体経済に対する責任も負ってもらい、さらには政府との協調の中で、インフレターゲットを設定するということも書くべきではないのかなと思います。

そして手段については、日本銀行が決めていくことでありますが、私見を言わせて頂ければ、量の額で制限を組むのではなく、あくまでも制限は3%であれば3%なんですよ。3%達成するまでは、基本的に無制限で、金融緩和をしていくという発表をしていただくという必要があります。これはECBとか、あるいはアメリカであったQE1、2、3の形式に近いものではないだろうかと、こう思うわけであります。それによってインフレ期待に変えていく必要がございます。

実際にこれはインフレ期待が出てきてインフレになるまでは、少し時差がかかるかもしれない。ずっと我々は今まで、デフレを続けていますから、その後遺症として、実際に起こるまで時差が長くなってしまうかもしれませんが、その暇はありません。であるならば、まずは政府の支出でそれを引っ張っていく必要があると思います。つまり正しい公共投資を、マクロ政策的に行っていくことを求められています。
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2010年11月06日

デフレの何が悪いのか?−デフレが悪い8つの理由−

デフレの何が悪いのか?− デフレが悪い8つの理由 −

このブログでは一貫して、今の日本経済の悪化の元凶をデフレとし、その克服を目指すこと(リフレ)が必要であるとの視点で書いてきた。今回は「そもそもデフレの何が悪いのか?」について考えてみたい。

デフレの害 1 企業業績の圧迫


まずデフレとは、物価が持続的に下落していく現象を指し、 それは逆に貨幣価値の上昇を意味する。

[世] [画像] - 日本のGDPデフレーターの推移(1980〜2010年)
GDPデフレーターの推移

上の図はGDPデフレーター(名目GDP/実質GDP)の推移である。推移がプラスならインフレ、マイナスならデフレ傾向にあると見ることができる。これを見ると、日本は97年から一貫してデフレであったことが理解できる。

物価が持続的に下落するということは、つまり、企業がこれまでと同量の商品を製造・販売しても、売上高は下落するということだ。もし、その企業だけが商品価格を下げなければ消費者は他企業の商品を購入するから、企業は販売価格を下げざるを得ない。低価格でこれまでと同量しか販売しなければ、必然的に売上げ高は減少する。これについては最近の牛丼の値下げ合戦を見れば想像できるだろう。もちろん、デフレのときには原材料の仕入れ価格も下落しているだろうから、売上げと同じペースで製造コストも下落していれば企業にとって問題はない。しかし、実際には人件費の下落だけはペースが遅くなるので、企業の利潤は物価下落率以上に圧縮される。

例えば、売上げに占める人件費の割合が30%、その他のコストが60%を占め、残りの10%が利潤となる企業を考える。デフレで売上げ額が3%下落し、人件費を除くコストも3%下落したとしても、人件費が下落しなければ利潤は12%も減少してしまう。

つまり、デフレの時には賃金の相対的な高騰が企業業績を圧迫するのである(相対的な高騰とは、物価が下落する中で賃金だけが下落しないことによる高騰を指す)。

デフレの害 2 失業の増加・格差の拡大


そこで、企業は思い切った人件費の圧縮に乗り出さざるを得ない。

デフレ率が3%のとき、自動的に人件費も3%削減できればよいのだが、既存の賃金制度や労働組合の存在によりなかなかそうはいかない。そこで企業が行ったのは、リストラによる従業員の解雇、新規採用の停止と正規社員の非正規社員への置き換えだった。つまり、日本の場合、人件費の圧縮は主に失業率の増加と若年層の賃金引き下げにより実現されたのである。また、相対的に高くなった人件費を嫌って、生産工場を海外へ移転する動きも活発化した。これは国内直接投資を減少させるから、雇用を縮小させた。

[世] [画像] - 日本の失業率の推移(1980〜2010年)
失業率の推移

実際、バブル崩壊後に上昇しながらも3%台を保っていた日本の失業率は97年(橋本内閣の失政)を契機として上昇率を高め、2001年には5%台にまで上昇した。この97年以降は日本が明確にデフレ入りした時期と一致している。

つまり、デフレは失業を増大させ、なおかつ、若年層の賃金を引き下げることにより世代間格差を拡大させたのである。

デフレの害 3 財政問題の悪化


デフレのもう一つの害は財政問題の悪化であり、これは名目成長率の低迷によりもたらされる。名目成長率とは名目GDPの成長率を指し、実測される経済成長率である。ここからインフレ率を引いたものが実質成長率であり、本当の経済成長率となる。

名目GDP成長率 = 実質GDP成長率 +インフレ率

の関係があるから、インフレ率が高いほど、名目経済成長率は高くなる。

名目GDPが重要な意味を占めるのはそれが税収を左右しているからだ。所得税にしろ、法人税にしろ、これらは所得や利益に対してかかるわけで、国全体としての所得・企業利益が増大すれば、それだけ税収も増大する。特に、所得税は累進課税により「所得の階段」を上った者により重く掛かるので、多くの人の所得が増える時期(=名目成長している時期)には名目成長率以上のペースで増加する。同じく法人税も企業が黒字の時に税収が増える。

デフレでは名目成長率は低下するので、その分、税収も増加しないことになる。さらに、デフレが不況を伴えば、生活保護等の社会保障費や、不況対策のための公共事業費が増大するので、歳入の減少と歳出の増加が同時に起こり、財政を悪化させることとなる。

デフレの害 4 債務問題の悪化


デフレにより物価や所得は減少するものの、一旦借り入れた借金(=債務)は減少しない。債務は元本に利息がついて増加するものだし、デフレになって金利が低下しても、元本は減らないから債務負担は実質的に増加する。

Debt GDP ratio.JPG
債務残高の対GDP 比

これが日本の債務問題を直撃している。日本の名目GDPに占める国債残高(=債務残高)がG7の中でも突出しているのは、日本だけが国債残高を増加させているからではなく、単に、日本だけが名目成長していないからであることについては「債務残高の国際比較」で検討した通りである。

そして、名目GDPが成長せずに、国債残高だけが増加すれば、債務が長期的に見て返済不可能になるかもしれない。名目GDPが増加しなければ、返済原資にあたる税収も増えないからだ。

デフレの害 5 消費の減退


経済がデフレ状態にあり物価が持続的に下落していれば、消費者は今消費するよりも、将来消費したほうがより多くの財やサービスを購入できる。貨幣は置いておくだけで日に日に価値を増すのである。わざわざローンを組んでまで、将来の値下がりが予測されている住宅や自動車を購入しようとは思わないだろう。このように、将来にわたるデフレが予測されるとき、消費は減退する。

ちなみに、フィリピンのようにインフレ率が5%前後で推移している国では状況が全く異なる。ちょっとした小金が舞い込んだだけでも、人々は我先にと消費や投資に回す。経済学など学んでいない田舎の農民でも、ちょっとお金が入っただけで、サリサリストアを始めたり、裏庭で豚を飼ったりするのである。なぜなら、現金のままで置いておいても価値が目減りすることを知っているからだ。銀行に預けたときの預金利息(せいぜい1%)より、インフレ率の方が高いから、消費に回すか、投資に回すほうが合理的なのである。

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Photo by Keith Bacongco

デフレの害 6 投資の減退


また、企業にとってはただでさえデフレで人件費が相対的に高騰している上、上記のように需要が減退している中での新規投資はリスクが高い。その上、デフレ下では実質金利が高くなるから投資へのインセンティブが減退する。

例えば、銀行から借り入れるときの金利が3%だとする。100万円を借り入れたら、1年後に103万円を返済すれば良い。しかしここで、デフレ率が2%なら、1年後の100万円の実質価値は102万円になっている。つまり、1年後の返済額が103万円だとしても、それは実質的に105万円を返済しているのに等しいのだ。この5万円のことを実質金利と言い

実質金利=名目金利−インフレ率

の関係がある。

デフレのときは名目金利にデフレ率を足したものが実質金利となる。だから、今、ゼロ金利だの、史上最低の金利水準だの言われても、実際には 借り入れ金利+デフレ率 が借り入れコストとなるわけで、決して金利水準が低いとはいえないのだ(実際、70年代の高インフレ時代は、貸し出し金利が高くとも、実質金利はマイナスの水準だったし、バブル景気のときも実質金利は今よりも低かった)。

つまり、企業にとってはデフレによる賃金の相対的な高騰、消費の減退に加えて、実質金利の高止まりという状況に直面することになるから、投資のリスクは高くなり、積極的な投資を行おうというインセンティブがなくなる。

デフレの害 7 イノベーションの鈍化


一言で言うと、インフレは安全志向の貸し手からリスク・テイカーである借り手への所得の移転であり、 デフレは逆にリスク・テイカーである借り手から、安全志向の貸し手への所得の移転であると言える。

これまで見たとおり、インフレにより債務(借金)の実質的価値は減少するので、インフレの時には借り手が有利になる。逆にデフレのときは借り手が不利になる。社会で、借り手とは企業のことである。一般的に企業は銀行等から資金を借り、投資し、企業活動を行うことにより富(付加価値)を生み出す。また、企業活動は必ず成功するわけではなく、常にリスクを抱えながら投資を行っている。このリスクに対する報酬こそが利潤だと考えられる。しかし、デフレでは借金をすることが不利になるので、ただでさえリスクを取りに行っている企業は、より不利な条件に直面することになる。

反対に、貸し手とは安全を志向する主体である。貸し手はできるだけリスクを避け、投資活動よりは低利でもよいから銀行に貯蓄する。デフレでは、この安全志向の貸し手がより有利となる。

リスクをとらないことが有利な状況をつくりだしてしまえば、投資は減退し、経済は成長しなくなる。経済は、儲かるかどうかわからないにもかかわらず、エイヤッと投資する企業(=リスク・テイカー)がいて初めて回るものであり、そうしたリスクを負っての未知への挑戦こそが技術革新の原動力である。デフレはこのリスクを高め、ハードルを上げることによりイノベーションを鈍化させてしまうのだ。


デフレの害 8 円高の進行


最後に、円高について触れておく。

円高とは円が他の通貨に対して高くなることである。つまり、円の価値が高まることだ。

そもそもデフレの国の通貨の価値は日に日に高まっている。通貨の購買力が上昇しているからだ。その反対にインフレの国の通貨の価値(購買力)は下落している。この2つの通貨の交換比率は、その購買力に合わせてデフレの国(日本)の通貨(円)が高くなり、インフレの国(アメリカ)の通貨(ドル)が安くなることは必然である。

もちろん、為替相場は通貨の購買力だけで決定されるものではない。為替市場では通貨への需要と供給で交換レートが決定するから、購買力以外の要因も重要となる。その中でも重要なのは金利である。

日本の金利が低く、アメリカの金利が高いなら、日本の銀行で円を借りて、それを為替市場でドルに交換しアメリカの銀行へ預け入れれば、それだけで金利差分の利益が手に入る。これはいわゆる円キャリートレードといわれるもので、リーマンショック前までは活発に行われていた。この時、為替市場では円を売りドルを買う取引が行われるから、円安・ドル高に為替が動く。日本はデフレにも関わらず、円安が進行したのだ。

しかし、リーマンショック後は、各国ともに金融緩和により金利を大幅に引き下げたので、もう金利差は存在しない。金利差が為替を決定する要因として重要度を失えば、購買力の差が効いてくる。

このようにして、現在は一方的な円高が進行しているのである。

そして、円高が進行すれば、日本人の人件費は相対的に高くなる。企業は高い人件費を嫌い、生産拠点を海外に移すようになるのである。

最後に


クルーグマンによれば経済で重要なことは3つ。生産性、所得分配、そして失業である。この3つの中にデフレという言葉はない。



にもかかわらず、デフレがことさら重要だとするならば、それはデフレが生産性を低下させ、分配を歪め、失業率を増加させるからだということになる(もっとも、当時のアメリカ経済にとってデフレは想定外であるため、わざわざ議論されなかったというほうが正しいかもしれない)。

生産性の低下はデフレによる企業業績の圧迫、消費の減退、投資の減退、イノベーションの鈍化によってもたらされる。デフレは名目成長の低下だけでなく、実質成長までも抑制してしまうのだ。分配の歪みは、若年層の賃金低下によってもたらされる。また、デフレはそれ自身が借り手から貸し手への所得移転として分配を歪めてしまう。そして、失業率の上昇は企業業績の圧迫で発生し、円高の進行による企業の海外移転によって拍車がかかる。

このように、デフレは消費と投資の双方を鈍化させるから不況の原因となる。日本の20年の大部分はデフレ不況だった。さらに、デフレそれ自体が不況を伴わないとき(2004−2007年)でさえ経済にネガティブなインパクトを与えていると考えられる。この時期にインフレを伴っていたならば、日本は外需だけに依存せず、内需の拡大により、より大きく実質成長していただろうと考えられるのだ。

以上、企業業績の圧迫、失業の増加・格差の拡大、財政問題の悪化、債務問題の悪化、消費の減退、投資の減退、イノベーションの鈍化、円高の進行の8つがデフレの害だと考えられる。
posted by philnews at 06:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2010年09月16日

為替介入と非不胎化介入

一昨日(9月14日)は民主党の党首選挙で菅代表が再選され、菅首相の続投が決まった。しかし、この結果を受けこれまで円高基調で推移していた為替相場はさらに円高が進み15年3ヶ月ぶりに82円台に突入。翌朝、これまで見守るだけだった政府は、ようやく重い腰を上げ為替介入に踏み切った。日本による為替介入は実に6年6ヶ月ぶりである。


為替介入


為替介入とは、一般に、通貨当局が外国為替市場において、外国為替相場に影響を与えることを目的に外国為替の売買を行なうことを言う。日本では、財務大臣が円相場の安定を実現するために用いる手段として位置付けられており、為替介入は財務大臣の権限において実施される。日本銀行は、その際に財務大臣の代理人として、財務大臣の指示に基づいて為替介入の実務を遂行する。

為替介入は、各国の通貨当局が自主的に判断して決めるが、複数の通貨当局が協議のうえで、各通貨当局の資金を用いて同時ないし連続的に為替介入を実施することを「協調介入」と呼ぶ。今回は日本が単独で行ったので「単独介入」である。

日本銀行が財務大臣の代理人として行なう為替介入は、すべて政府の「外国為替資金特別会計」(外為会計)の資金を用いて行われる。この資金は、大別して外貨資金と円資金によって構成されており、ドル買い・円売り介入の場合には、「政府短期証券(FB)」を発行することによって円資金を調達し、これを売却してドルを買い入れる一方、ドル売り・円買い介入の場合には、外為会計の保有するドル資金を市場で売却して、円を買い入れることになる。

今回は円高是正のためのドル買い・円売り介入なので、そのための資金は政府が発行した「政府短期証券(FB)」を売却して調達したことになる。

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Photo by Roger Smith

不胎化介入と非不胎化介入


昨日(9月15日)のニュースでは日銀による不胎化介入・非不胎化介入という言葉が乱れ飛んでいた。例えば

日銀、介入資金を吸収しない方向=関係筋
[東京 15日 ロイター] 関係筋によると、日銀は、15日の外為市場で実施した円売り/ドル買い介入で供給した資金を吸収せず非不胎化する方向。
 日銀は15日、政府・日銀がドル買い/円売り介入を実施したことを受け、「強力な金融緩和を推進するなかで今後とも金融市場に潤沢な資金供給を行っていく方針」との総裁談話を発表した。


為替介入の実施と同時に注目を集める非不胎化介入とは何なのか?

為替介入のための資金調達は政府が「政府短期証券(FB:Financing Bill)」を発行・売却することにより得られる。現在、FBは基本的に市場で売却されることになっているので、資金調達と同時に市場の資金を一旦吸収することになるが、為替介入と同時に円が市場へ供給されることになるので、全額が市場調達される場合には市場での資金量の変化は差し引きゼロとなるはずである。但し、FBを日銀が買い取った(引き受けた)場合は、新たな資金が市場に供給されることになるので、市場での資金量は増加する。

つまり、為替介入(ドル買い・円売り)のための資金を日銀が供給すれば、円高が是正されると同時にベースマネーが増加することになり、金融緩和の役割も果たす。

ベースマネーの増加はインフレ要因となりうるから、ここで日銀が市場の資金量を調整するために、市場から資金を吸収すること(国債の売りオペによってなされる)を不胎化介入と呼ぶ。インフレの種が蒔かれることを「胎化」、それを発芽させないことを「不胎化」と呼ぶのだ。

fetus.jpg
Photo by lunar caustic

では、さらに非不胎化介入とは何なのか?

これは不胎化介入をしないという意味なので、為替介入により市場に出回る円が増加しても、日銀はそれを吸収しませんよということだ(不胎化介入しないという意味)。

昔は為替介入のための資金は日銀が供給していたので、為替介入により市場に出回る資金量は増加した。そのため、増加した円を日銀が国債の売りオペなどで回収していたのだ(不胎化介入)。だから、資金を吸収せず、市場に出回る円の量を増加したままにすることが非不胎化介入だった。

しかし、今は原則的に為替介入の資金調達は市場で行われる。この場合、為替介入しても市場に出回る円の量は結果的に変化しない。この場合の非不胎化介入とは、日銀が為替介入分に用いられた円と同額を市場に供給することを意味するのだが、果たして、そんなことが行われているのだろうか?

この点について調べてみたのだが、明確に解説しているメディアはほぼ皆無だった。

しかし、メディアではさかんに「日銀は非不胎化介入を決定」などのニュースが報道されている。ということは、為替介入のための資金を日銀が供給したか、あるいは日銀が為替介入に用いられた資金に相当する円を国債買いオペによって市場に供給したかのどちらかということになる。しかし、実のところ日銀はより消極的に「日銀は市場から円を吸収せずに見守ります」という何もしないことを持って「非不胎化介入」と呼んでいる可能性さえ排除できない。

残念ながら筆者はそれを判断するに十分な情報を持っていない。もっというなら、為替介入によって市場に出回る円の量が増加するのか、しないのかというのは非常に重要なポイントなのにも関わらず、それを判断できるだけの情報が国民に与えられていないとも言えるのではないだろうか?

為替介入について比較的わかりやすく解説されている朝日新聞の記事でさえ

円売り介入、長期化の可能性 日銀のサポートがカギ
日銀は15日、円売りドル買いの為替介入で金融市場に投入される円資金の一部を回収せず、市場に出回る円資金の量を増やす「非不胎化」に踏み切る方針を決めた。円売り介入では、金融機関からドルを買って円資金を支払うため、金融市場に出回る円の量が大量に増える。

と、資金の調達元を検証することなく「為替介入すれば市場に出回る円の量が大量に増える」と説明してしまっている。


必要なのは金融緩和とリフレ


ところで、今回は円高是正のために為替介入が行われたわけだが、実のところ、こうした人為的な為替介入は必要さえなかったと言える。

現在、円がドル、その他の通貨に対して一貫して高くなっている理由は、アメリカその他の国々がリーマンショック以降の景気後退に対応して金融緩和を行い、ドルやポンドをどんどん印刷していることだ。ドルが増えて、円が増えなければ、円高・ドル安になるのは自明の理である。

ならば為替介入なしに円高・ドル安を是正する方法は何か?それは、日銀も円を増刷すればよいのである。つまり、一層の金融緩和(量的緩和)である。

どの程度の金融緩和が必要か?と言えば、日本は今、デフレなのだから、せめてインフレ率2%程度になるまでの円の増刷である。もし日銀が「インフレ率が2%になるまで毎月3兆円分の長期国債を買い切ります」と宣言し実行したなら、市場には年率2%のインフレ期待が生まれて、ようやくデフレから脱却し、なおかつ、インフレ期待に合わせて為替相場も円安方向へと転換するだろう。

どちらにしても、今回の為替介入をより効果的にするためには、為替介入と同時に市場に出回る円の量を増加させ、金融緩和の意味を持たせる非不胎化介入は最低限必要な措置だと考えられる。

【参考】日本銀行
財務省 円の国際化の推進策について 
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2010年07月07日

「失われた20年」と「失われた3200兆円」

この20年間、日本を除く先進国は年平均4%程度の名目成長をしてきた。その間、日本の名目成長率はほぼゼロ。日本も一定程度の実質成長を達成していたにも関わらず、デフレが見事にこれを相殺してきたのだ。

GDP G7.jpg
名目GDP成長の国際比較

日本のGDPは1000兆円


IMFの統計によると、1990年の日本のGDPは439兆円。そして2010年のGDPは475兆円程度になると見られる。仮に、他の先進国と同様に1990年から20年間年率4%の名目成長をしていたと仮定すると

439兆×1.04^20 = 439兆 × 2.19 = 961兆円

現在の日本のGDPは約1000兆円となる。もしも現在の名目GDPが1000兆円もあれば、800兆円といわれる債務問題はGDP比80%となって大した問題ではなかったことがわかる。しかし、デフレにより名目成長を行わなかったツケはこんなものではない。債務問題については「国民一人当たり800万円の借金」などといって大騒ぎをしているが、デフレにより日本は、桁違いの損失を生んでいるのだ。それは、この20年間に生み出されるはずだった付加価値を喪失したことである。

「失われた3200兆円」


この20年間で生み出されるはずだった付加価値の合計額は等比数列の和(等比級数)として簡単に求められる。以下の公式に当てはめれば良い。

Sn = a(1-r^n)/(1-r)

ここで 

初項 a = 439兆円
公比(成長率) r = 1.04
項数(期間) n = 20年

をあてはめると

S20 = 439兆×(1-1.04^20)/(1-1.04)
=13,060兆円

これにたいし、実際に生み出された付加価値額(名目GDP)の合計は9,858兆円だった(1990年から2009年までの名目GDPの単純な和)。つまり、年率4%の名目成長をしていた場合と、デフレにより名目成長を打ち消してきた現実の日本を比べると

13060兆 − 9858兆 = 3202兆円 の付加価値が実現されなかったということになる。

日本人口は約1億2700万人なので、これを国民一人当たりに直すと

3202兆円 / 1億2700万人 = 2521万円

なんと、国民一人当たり約2500万円も喪失した計算だ。4人家族なら1億円を稼ぎ損ねたのだ。

Factory.jpg
Photo by E2-E4

デフレによる損失 一人当たり2500万円


このブログで何度も書いてきたように、デフレ不況から脱却するために有効な政策を発動できるのは政府・財務省(財政政策)と日銀(金融政策)のみである。個別企業や個人の合理的な努力は無力なのだ。にもかかわらず、日本はこの20年間、財政支出の拡大が必要な時には「財政再建」を目指して増税・歳出削減を行い、また、ようやくインフレ率がマイナスからプラスへ転じようとすると金融引き締めを行いデフレに引き戻すという、信じられないような財政政策と金融政策を繰り返してきた(日本経済 過去20年の推移)。

その結果が「失われた20年」であり「失われた3200兆円」なのである。

そして、その「失われた3200兆円」の内実が、企業業績の悪化、企業の倒産、失業率の上昇、賃金水準の低下、正社員から非正規社員への置き換え、大卒就職率の低下、自殺者数の増加なのである。こうした問題は他の国なみの普通の経済成長さえしていれば起きなかったことばかりだ。

にもかかわらず、日本では「もう経済成長はいらない」とする言説がまかり通り、または「最近の若者は努力が足りない」と若年層の失業問題を個人個人のミクロの問題へと還元するシバキ主義が横行している。そして、誰もこの「失われた3200兆円」を生み出した張本人である政府・財務省・日銀(そして何も言わない経済学者)への批判や怒りとしてぶつけないようなのだ。

2500万円も盗られたら、普通、誰だって怒るはずなのに・・・・


【参考】IMF: World Economic Outlook Database

【関連】
債務残高の国際比較
日本経済 過去20年の推移
日本とフィリピンのGDP推移
G20で財政赤字半減を合意
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2010年07月01日

G20で財政赤字半減を合意(日本は例外)

カナダ・トロント(Toronto)で開催された20か国・地域(G20)首脳会議(金融サミッ ト)では2013年までに先進国は財政赤字を半減させるという方針が合意された。但し、日本はこの方針を適用除外されたということである。

これについて日本のメディアは「「例外扱い」は恥ずかしい」(産経)とか「日本こそ必要な危機感」(毎日)とか、まったく見当違いの反応をしている。

しかし、さすがに世界はよくわかっている。日本は財政再建なんかしている場合ではないってことを。

債務を10%軽減する方法


例えば、日本のGDPを500兆円、債務額を800兆円とする。財政の持続可能性で重要なのはGDPに対する債務比率だから、GDPに対する債務比率を10%低減することを考えよう。

これを債務返済で行おうとすると、80兆円返済する必要があり、この80兆円は増税と歳出削減を財源とする必要がある。一方、分母にあたる名目GDPの成長で行おうとすれば、年率3%の成長を3年続ければおしまいだ。

3年間で80兆円分の債務返済を行うことと、3年間、年率3%の名目成長を続けることの意味が同じ。にもかかわらず、日本は、この20年間に渡って「人為的に」成長率をゼロに抑えてきた。インフレ率がマイナスからプラス域へ転じようとするたびに日銀が金融引き締めを行って、またデフレへと引き戻してきたからだ。(参考)

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photo by _Teb

リフレ政策によるデフレ脱出こそが急務


そうした日本に課せられたのが他国と同じ「財政赤字の半減」でなかったことは当然といえる。他国の場合、すでに名目成長率は十分に達成しているので、あとは財政赤字の削減しか手がない。しかし、日本の場合はデフレをインフレへ転換させる(リフレ政策)だけで債務比率の軽減ができてしまう。増税・歳出削減なんかしてデフレ不況を深刻化させれば、それこそ取り返しがつかないのだ。

つまり、同じ債務問題、財政再建とはいっても、日本と他の先進国では処方箋は異なるのである。日本がやるべきはまず、リフレ政策によるデフレ不況からの脱出なのである。

【参考】債務残高の国際比較
日本経済 過去20年の推移
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